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1976年 ノーベル物理学賞受賞者 Burton Richter博士
Burton Richter博士のメッセージ
元SLAC国立加速器研究所所長のバートン・リヒターです。おそらく、衝突型加速器を誕生させた科学者では、最後の一人になるかもしれません。
今、私たちは次世代の大型加速器について考えています。高エネルギー加速器コミュニティは、もう10年いや15年になるでしょうか。電子陽電子加速器に向けて協力してきました。
アジア、ヨーロッパ、アメリカがひとつになって技術開発を進めて来たのです。
次の加速器にむけて、技術は完成しています。問題はどれが次の加速器になるのか、どんな競争相手がいるのか、ということです。
大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が再稼動しました。LHCのエネルギーは、ほぼ倍になり、様々な成果が出てくることが期待できます。
すでに出ている成果として「ヒッグス粒子」がありますが、これはみんなが思っている「いわゆるヒッグス粒子」なのでしょうか?
質量は軽く、予測した領域で見つかり、ほかの性質などは合っているので、おかしな疑問に思えるかもしれませんが、いろいろなバリエーションのヒッグスが存在するのです。
それが「確かにヒッグスである」ということを確認するためにとる方法のひとつが「崩壊分岐比」を調べることです。標準理論が予測するヒッグス粒子なのかどうかを調べることができるのです。
電子陽電子衝突型加速器は、陽子加速器よりも、ずっと、ずっと、はるかに簡単に、それを調べることができるのです。
理由は簡単です。電子と陽電子は両方とも素粒子で、陽子は複合粒子です。高エネルギーの電子陽電子衝突では、私はそれを「democracy of production」と呼んでいるのですが、全ての反応断面積はだいたい桁の単位程度では同じです。陽子衝突では、実験物理学者たちは、研究したい反応の10億倍から100億倍も生成される「極めて多くのバックグラウンド反応」に対処する必要があります。これは非常に困難な作業です。これをするためには、大変な測定器の設計やエンジニアリング、トリガーの設計を要するのですが、明らかに、成功したのでしょう。なぜなら、彼らはヒッグス粒子を発見したのですから。
しかし、精密に崩壊分岐比を見るためには、クリーンな環境で探索する方がはるかに容易です。また、長い将来を見通して考えるべきことは、陽子は複合粒子ですから、そこから起きる発見したい反応は陽子の反応ではなく、陽子に含まれる粒子の反応になります。ですから、14TeVのエネルギーのLHCで、14TeVの領域の粒子が発見される可能性はゼロになります。電子陽電子衝突の場合には、陽子衝突の10〜15パーセント程度のエネルギーで同じ実験ができます。
これからの未来を考えると、新しい加速器が建設されることを願っています。その加速器は、物理的な意義を持ち、コストがコントロールされなければいけません。電子コライダーは、注目されるべき価値あるものですが、まだ理解が進んでいないようです。
最後に、私がまだ若かった頃の話で締めくくりたいと思います。私はSFのファンなのですが、作者もタイトルも覚えていないのですが、あるSF小説の最初のページをよく覚えています。最初のページには「高エネルギー物理と地上天文学の研究は、施設があまりに高価になり過ぎたため、もはや行われていない」と書かれていたのです。それはビーム衝突が発明される前の話でした。ビーム衝突技術のおかげで、私たちが今実現しているエネルギーの加速器を建設することができるようになったのです。
次の実験を考える時には、先端加速器R&Dへの投資を考えるべきでしょう。幸運を祈っています。