宇宙を知るAbout Physics
素粒子の世界
力の「大統一」
20世紀の素粒子物理学の研究により、物質はすべて、6種類の「クォーク」と6種類の「レプトン」と呼ぶ最小単位の粒子からできていることがわかりました。また、それらの間に働くのは「電磁気力」「強い力」「弱い力」「重力」のたった4種類の力であることが分かりました。しかし、物理学者たちは4つでもまだ多いと考えています。これは、アインシュタインも晩年の30年間この研究に挑戦し続けたという、素粒子物理学の大きな課題です。
1967年、ワインバーグとサラムが、「電磁気力」と「弱い力」を統一することに成功しました。宇宙誕生直後のようにエネルギーの高い状態では、2つの力の強さも及ぶ範囲も同じだったことが明らかになりました。次に素粒子物理学がターゲットにしているのは、この「電弱力」と「強い力」を統一する「大統一理論」です。
この理論を構築するためには、先端加速器による実験が欠かせません。
物質で満たされている世界
現在の宇宙は物質(陽子・中性子・電子)でできており、その反物質(反陽子・反中性子・陽電子)はごくわずかにしか存在しないことがわかっています。現在のような物質過剰の宇宙になるには、宇宙の歴史の初期において、100億個に対して1個の割合で物質が反物質より過剰に生成されるというアンバランスが生じたはずです。そのためには、物質と反物質との間の対称性(CP対称性)が破れていることが必要です。
まだクォークが3種しか知られていなかった1973年に、小林誠・益川敏英の両博士はCP対称性の破れが起きるためには、少なくとも6種のクォークが必要であるという理論を提唱しました。近年、KEKB加速器のBelle実験と米スタンフォード線形加速器センター(現SLAC国立加速器研究所)PEP2加速器のBabar実験が、CP対称性の破れを検証し、両博士は2008年のノーベル物理学賞を受賞しました。
しかし、物質過剰宇宙の謎を解くためには、より高いエネルギーでのCP対称性の破れと、物質過剰を引き起こす素粒子反応の解明が必要です。大型ハドロンコライダー(LHC)、国際リニアコライダー(ILC)での実験が待たれています。
ダークマターとダークエネルギー
近年、実験や観測の技術が飛躍的に進歩し、宇宙の姿をかつてない精度で描けるようになってきました。その結果、これまで観測してきた物質は、実は全宇宙のほんの4%を占めるにすぎないことがわかってきました。残りの22%は光では見えない「ダークマター」、そして74%は宇宙を加速度的に膨張させる「ダークエネルギー」だと考えられています。しかし、その正体は不明です。
先端加速器で、ダークマター素粒子をつくりだすことができれば、宇宙の謎がまた1つ解明されます。
余剰次元
4つの力のうち、電磁気力、強い力、弱い力の3つは同じ原理(量子力学)で理解できますが、残りの1つの重力は、異なる原理の力のように見えます。この4つを1つにまとめる可能性があるのが「超ひも(弦)理論」です。この理論では物質と力の素粒子は「ひも」の振動の現れであり、振動のパターンによって、その種類が違ってくると考えています。この「ひも」は私たちの住む4次元時空ではなく、もっと次元数の多い時空にしか存在できないことが分かっています。
4次元時空を超えて存在する次元を「余剰次元」と呼びます。重力を担う素粒子のみが、この余剰次元と私たちの4次元空間とを行き来できる可能性があります。
国際リニアコライダー(ILC)では、余剰次元にエネルギーが逃げてしまう、つまりエネルギー保存則が成り立たない素粒子の反応が観測されるかもしれません。