宇宙を知るAbout Physics
測定器のひみつ
ILCでは、検出方法が違う2種類の測定器を作ります。
日欧がメインで進めているILD
米国がメインで進めているSiD
この2つの測定器で相互にデータを補完しながら精密な測定を行います。
測定器の仕組み
加速器で光速に近いスピードに加速された電子と陽電子(電子の反物質)は、衝突点の中心で互いにぶつかります。
ぶつかった電子と陽電子は物質ではなくなり、エネルギーに転換します。
空間の一点にエネルギーが詰め込まれている状態は長続きはせず、すぐになんらかの物質(素粒子)がその点から生まれます。
エネルギーから生まれた素粒子はその種類によって様々な特徴を持っています。
衝突点を測定器で取り囲むことによって素粒子の特性をはかり、目的の素粒子が出てきたのかどうかを知ることができるのです。
測定器のセンサー
素粒子はとてもとても小さいので、観測するのがとても難しいです。
だから測定器にはいくつかの種類の特殊なセンサーが付いていて、その通っていった跡を見る仕組みが組み込まれています。
測定器は輪切りにすると、まるでお菓子のバームクーヘンのよう。種類の違うセンサーが、筒型に層になって設置されます。そのバームクーヘンのセンサーは大きく分けると全部で6種類の測定器が層になっています。
1.バーテックスディテクター
6種類のうち、最も内側に設置される測定器です。
カメラのCCDのようなセンサーがびっしり敷き詰められています。
素粒子がセンサーを横切ると、その素粒子が通過した場所をとても精度よく知ることができる仕組みです。センサーが何重にも取り囲んでおり、どの様な軌跡をたどったかを知ることができるのです。
2.セントラルトラッカー
内側から数えて2番目に設置される測定器です。
バーテックスディテクターと同じように、素粒子の軌跡を知るためのセンサーです。
CCDでも良いのですが、容積が大きくなるとコストが大きくなるため、もっとスマートな方法がとられています。
ガスが充満しており、中に通った粒子がガスと衝突してできる電子の情報をとらえることで、粒子の飛んでいった跡を調べる仕組みになっています。
3.電磁カロリーメーター
内側から数えて3番目に設置される測定器です。
カロリーメーターのカロリーとは、熱量をあらわすカロリーです。電子や光のエネルギーを測定する装置です。
タイプによって異なりますが、透明な結晶を用います。
写真にある透明な結晶部分に電子が入ると、電子が光に変化します。
その光の明るさを正確に計って、電子がもっていたエネルギー量を計測する仕組みです。
4.ハドロンカロリーメーター
内側から数えて4番目に設置される測定器です。
こちらもカロリーメーターという名前がついていますが、対象は電子ではなく陽子や中性子のエネルギーを測るためのものです。
センサーの前には、タングステンのブロックがあり、そこにぶつかった粒子が次々と光に分解され、その光を見る仕組みなっています。
5.クライオスタット
これはセンサーではありません。とても強力な超伝導の電磁石です。その強力さは4テスラ。肩こり用磁石が0.1程度ですので、いかに強力かが分かると思います。
この電磁石は強力な磁場で素粒子を曲げるために設置されます。
素粒子が電気の性質を持っていると、その勢い(運動量)によって曲がり方が変わるのです。
電気的な性質がゼロだと磁力の影響は受けずにまっすぐに飛ぶことになります。
セントラルトラッカー中での曲がり具合を見て、粒子の運動量を記録します。
6.ミューオントラッカー
こ一番外側にはミューオンを見るためのセンサーがあります。ミューオンは1~5のセンサーには反応しないので、このミューオントラッカーで検出します。
中にはガスが充満していて、その中を通るミューオンの電気的な信号を測定し、通っていた位置と運動量を記録します。
測定のまとめ
中央のバーテックスディテクターやセントラルディテクターでは粒子の飛び方を調べ、曲がり具合などを観察し、通っていった位置と運動量を記録します。
ポイントは強力な磁石に囲まれているということです。
磁場があると、電気を帯びた素粒子は真っ直ぐ飛ぶとことができずに曲がってしまいます。
これにより、その粒子の電気的な性質や運動量が分かります。
その後、粒子は結晶や、タングステンなどにぶつけてエネルギーに変換し、カロリーメータで粒子のエネルギーを精密に測定します。
これらの測定を総合してイベントで出てきた素粒子の種類を調べ、ヒッグスなどの性質を詳しく知ろうとしています。