【日曜に書く】論説委員・中本哲也 「開国の志」で加速器誘致を

2018年11月18日

産経新聞

宇宙と物質の成り立ちに迫る次世代加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致をめぐる国内の議論が、重要な局面を迎えている。
海外からは日本政府の誘致表明を望む「追い風」が強まっている。一方、日本学術会議の検討委員会は誘致表明に慎重な見解を示す見通しで、「逆風」も強まりそうな雲行きなのだ。
政府は年内にも国内誘致の是非を決断する。数千億円と見込まれるホスト国の負担は決して軽くはない。文部科学省の要請を受けた学術会議の見解も無視はできまい。だが、「内向き」の消極的な議論にとらわれると日本の未来は開けない。

ILC誘致は日本社会の閉鎖性を打破する突破口にもなりうる。国際社会と日本の将来を見据え、開国の志と大きな構想を国民に示し、政府は誘致に踏み切るべきである。

新しい物理学

ILCは日米欧など約50カ国の物理学者らが国際協力による建設を目指す直線型の巨大加速器である。あらゆる物質に質量をもたらすヒッグス粒子の存在を実証した欧州合同原子核研究所(CERN)の円形加速器「LHC」の次世代機と位置づけられる。建設候補地は宮城県と岩手県にまたがる北上山地に絞られている。

計画では、地下100メートルに建設する全長20キロの加速器内で電子と陽電子を正面衝突させ、ビッグバン直後の超高エネルギー状態を再現する。ヒッグス粒子を大量に生成し、その性質を解明することで現在の素粒子物理学の枠組みである標準理論を超える「新しい物理学」の扉を開ける壮大な実験施設だ。

ILC計画の学術的な意義に関しては、日本学術会議の検討委も大筋で認めているが、ILC誘致に批判的な検討に重点が置かれてきた。今月14日の検討委で公表された見解案は、ILC計画の意義を矮小(わいしょう)化した表現が目立つ。

特に内向きの姿勢が顕著で政府や国民をミスリードする懸念が大きいのは、「ILC計画を我が国で実施することの国民および社会に対する意義について」の記述である。

ILC誘致の是非を判断するうえで非常に重要な項目だが、見解案の内容と表現はILC誘致を阻止するための作文としか読めない。