Columnコラム
時を駆ける少女 ライナ見参!
15年ほど前までは、「標準理論」と呼ばれる物理学の理論がこの宇宙のすべてを説明できると考えられ、 科学者達はその証拠となる実験データを、加速器を使って着々と集めていました。当時は、どのデータの 解析結果をみても「標準理論」から予測される値と実験値は次々と合致し、「標準理論」の確認作業が 続きました。ところが、標準理論には一つだけ確認されていない素粒子、「ヒッグス粒子」があり、 これさえ見つかれば理論は完成すると思われ、世界中の科学者が発見に努めておりました。
そんな折、宇宙の観測データから驚くべき事実が浮かび上がってきたのです。「標準理論」に現れる 素粒子で宇宙は構成されていると信じられていたのですが、宇宙には、実は未知の素粒子が存在する ことがわかってきたのです。その粒子は光に反応しない性質を持つ重たい素粒子である可能性がありました。 そんな素粒子は「標準理論」には存在しないため、「ダークマター」と呼ばれるようになります。さらに、 それだけではなく、宇宙は近年加速的に膨張するモードに入っており、大量のエネルギーが放出されて いることも解かってきました。そのようなエネルギーは「標準理論」の中には存在しないため、これも また「ダークエネルギー」と呼称されることとなりました。しかも、そのダークマターとダークエネルギーの 宇宙を占める割合がなんと、96%。逆に言えば、「標準理論」の素粒子達は、宇宙の4%しか占めていないと いうのです。
そこで登場したのが、世界中の科学者がそのダークマターとなる素粒子を発見し、その性質を 確かめるための決定打となる加速器計画、「国際リニアコライダー(ILC)」です。ILCは、 宇宙創成時ビッグバン期にしか存在しなかった素粒子の高エネルギー反応を再現します。 より初期の宇宙に肉薄するために、リニアコライダーが用いる技術が超伝導加速空洞です。 この技術により達成する素粒子のエネルギー反応は500ギガエレクトロンボルトで、これは 宇宙創成後1兆分の1秒後の世界の再現を可能にします。ILCが、137億年前に起きた ビッグバンにタイムトラベルを行う装置、『究極のタイムマシン』と謂われる所以です。
日頃から協議会の広報活動を支援して頂いている東京家政大学の学生さんが、 高エネルギー加速器研究機構を見学した際にこの話を聞いて、「究極のタイムマシン=加速器」を 操ってタイムトラベルする『時を駆ける少女』をイメージしたコスチュームとミニチュアの コライダー(写真)を作ってくれました。
去る11月8日に福岡市で開催された 先端加速器科学技術推進シンポジウムin九州では、制作者自らがコスチュームに身を包み、 『時を駆ける少女 ライナ』(ご想像のとおり、LINAC からとったネーミングです)として お目見えし、会場のマイク係を務めてくれました。そのせいかあらぬか、パネルディスカッションでは 会場の大半を占める高校生や大学生から、これまでにもなく多数の質問が寄せられ、 『宇宙の謎に挑む』加速器の認知度を大いに盛り上げてくれました。このシンポジウムの参加者が ブログにも取上げてくれています。会場の様子がよくわかりますので、ご参照下さい。
ILC計画の実現に向けて、『宇宙の謎に挑む』若者の挑戦に期待しています。 『時を駆ける少女ライナ』も夢ではなくなるかも知れません。