Columnコラム
『さよなら、0系新幹線~”ひかり”と”こだま”』
過日、博多から広島に移動する際にたまたま乗り合わせた新幹線の車中で、幸運にも「0系新幹線記念乗車証」を頂戴した。1964年10月1日東海道新幹線開業とともにデビューし、当時の最高時速である210km/hで走る「夢の超特急」として親しまれた0系新幹線は、誕生から44年後の本年11月30日に営業運転を終了した。謂わば、新幹線車両の引退第1号。ほぼ同じ時代を生き、数年後には定年を迎える筆者も、降り際には「ご苦労様でした」と声をかけた。
東京から新大阪まで各駅に停車する”こだま”に対して、在来線特急の半分の時間で新大阪までの主要駅間を結ぶ”ひかり”は、当時国鉄と言っていた鉄道マンにとっての文字通りの「夢の超特急」であり、とてつもなく速いという誇りから「光」だったのであろう。団子っ鼻顔の先頭車両とともに、素直な思い入れを感じさせるひらがな名が郷愁を誘う。
そういえば、日本人には3文字名前が好かれるようである。これは、長い名前を省略するときにも当てはまる。例えば、在京テレビ局の名前は、NHK、日テレ、TBS、フジ、テレ朝、テレ東と皆3文字以下。分類学的には、「ローマ字表記の頭文字省略形」、「日本語名の省略形」、「英語表記の頭文字省略形」と、凡そ省略類型を網羅している。確かに、NHKを日本放送協会というほうが少ないかもしれない。こんな3文字略名が市民権を得て通用するには、「使用圏面積X使用頻度」の法則を満たすことが必要である。
翻って、加速器の世界で使われる3文字略語は、果たしてどこまで市民権を得ているだろうか。例えば、ILC(International Linear Collider)。これを、「国際線形衝突型粒子加速器」と理解できる人は、ほとんどその道の専門家であろう。目的論的には、「国際線形加速型粒子衝突装置」(International Linear Particle Accelerating Collider=ILPAC)と呼ぶほうが、門外漢にも分かってもらえそうな気がする。広く国民の皆様に、「先端加速器科学技術の意義と重要性」を理解して頂くことを使命とする当協議会に身を置く者として、仲間内の安易な略語を使って一般の方の理解を妨げたり、いかにも難しい話だと誤解を受けるようなことは、厳に慎みたいと自戒している。
“ひかり”と”こだま”には、”のぞみ”が加わった。利便性を求める乗客の願いか、JRの希望の星なのか知る由もないが、ストレートなネーミングのひらがな名は耳に優しく、既に市民権を得て久しい。国際共通語となったILC若しくはリニアコライダーというカタカナ語に、日本での市民権を獲得させるには、「使用圏面積X使用頻度」の法則を満たすための感性溢れるアイデアと不断の努力が求められる。宇宙の謎を解明するILC計画を言い表して妙なる、感度の良い3文字略語を大募集します。