Columnコラム
「小林・益川理論の証明」(立花隆著)を読んで
去る2月21日に日比谷公会堂で開催された、「小林・益川両先生 ノーベル物理学賞受賞記念シンポジウム 小林・益川理論とその検証」(高エネルギー加速器研究機構主催)において、『標準理論の向こう側』と題する講演を行い、続くパネル討論でモデレータを務めた評論家立花隆氏が著した『小林・益川理論の証明』を読んだ。協議会の会員の皆様には是非とも、ご一読をお薦めしたい。 両氏のノーベル賞受賞後に出版された数多くの「小林・益川理論の解説」や「素粒子論(クォークの解説)」に関する刊行物と違い、本書は、そのサブタイトル「陰の主役Bファクトリーの腕力」が示すとおり、両氏の受賞を決定付けた高エネルギー加速器研究機構の実験的検証の努力と、その検証に大いなる威力を発揮した加速器”Bファクトリー”(KEKB)に焦点があてられているからである。 第Ⅰ部「小林・益川理論のノーベル賞 受賞から何を学ぶべきか」には、小林・益川理論の意味と意義について、文科系・事務系の筆者でも理解できるくらい、わかりやすく解説されており、それはそれで有用である。第Ⅱ部「消えた反粒子の謎に迫る」は、「サイアス誌」(朝日新聞社刊)2000年4月号~12月号に連載された同名のレポートを再録したものというが、それだけに”Bファクトリー”誕生の秘話から始まり、先行していた米国スタンフォード線形加速器センターとの、「CP対称性の破れ」検証における激烈な競争の様子が生々しく伝わってくる。
著者は言う。『サイエンスの世界では、すぐれた加速器が、一国の国力というか科学技術力の強さを最もよくあらわすシンボルのようなものと受け止められている。すぐれた加速器を作るということは、それを作るだけの経済力と、それを作るだけの技術力に加えて、そういうものをつくろうとする強いモチベーションを持ち、かつそれを運用するために必要な科学技術者をそろえられるだけの科学技術コミュニティを持つ(つまりそれだけの科学的国力を持つ)国にしてはじめてできることなのである。・・・・・日本が、自国が生み出したすぐれた科学者の理論を検証するために、これだけの超弩級マシーンを作り上げ、それで理論を見事に検証し、2人の科学者にノーベル賞をとらせたという事実は、日本がもっともっと誇ってよいものである。』
本書を読めば、去る2月26日の先端加速器科学技術推進シンポジウム2009において、「リニアコライダー国際研究所建設推進議員連盟」の河村幹事長並びに内藤事務局長が、『日本は国家戦略としてILC計画実現に向けて取り組むべき』と力説された意味が、一層良く理解されるはずである。再び著者の言葉を引用すれば、『平和的な基礎科学に徹して(人の流れも、金の流れも、成果の流れも)素粒子研究でここまで高い成果をあげつづけている国は日本だけだ』からである。最後に著者は嘆く。 『情けないのは、そういう事実が目の前にあるのに、その価値を知らない人間が大部分であるという日本の現状である。』
とすれば、産官学の連携による先端加速器科学技術の推進を目指して、先端加速器科学技術の可能性や意義を広く国内外に発信することを標榜する、当協議会の役目と責任は重大である。