Columnコラム
【高野山合宿】 東北大学 山本 均
最近、高校時代のクラスメート9人が集まり、高野山で一泊二日の合宿をした。初日は、高野山で金剛峰寺や霊宝館を見学してから宿坊に泊まり、その夜はセミナー。次の日の午前中に、お墓を見ながら奥の院まで歩いて帰るというプランである。
高野山は、ご存知のように弘法大師が開祖の金剛峯寺を中心とした真言宗の聖地。2004年には熊野・吉野の文化資産等とともにユネスコの世界遺産に登録されている。おかげで、特に国外からの観光客がグンと増えたそうである。高野山を訪れる観光客は、原則として数多くあるお寺に宿泊する。お寺の方もプロの宿泊施設で、普通の旅館との違いといえば、食事が精進料理であることと、朝早くにお坊さん達と一緒におつとめをさせられる事くらいである。我々が宿泊したのは櫻池院というお寺で、開基は白河天皇第四皇子覚法親王。もともとは養智院と名づけられていたが、池のほとりに咲く桜の美しさから櫻池院と改号されたという。
セミナーは大きな部屋を陣取って障子のうえに模造紙を張ってスクリーンとし、前もって郵送してあった液晶プロジェクターで投影して行うことになっていた。ところが、いざノートパソコンをつないでみると画面が真っ青。いろいろ議論したあげく、どうもケーブルの接触不良だと言う結論になったものの、こんな山奥ではプロジェクターのケーブルが手に入る店などない。半分諦めていたら、雲水さんが「これを使ってください」とケーブルを貸してくれた。お寺も随分ハイテクになったものだと、一同感心・感謝。
夕食のあと十分ビールが入ってから、まず世話人の奈良女教授が高野山の歴史の話をした後、メインは僕の素粒子の話となった。アリストテレスの自然哲学から素粒子の標準理論まで、物理の発展は理論の統合の歴史だったという話をしたが、たくさん質問が出たのはLHCとリニアコライダーの話になってからだった。メンバーは、NTTの研究所の所長さん、大手保険会社の代表取締役常務、ソニーのエンジニア、そしてもう一人は最近日本に帰ってくるまでシャープ・アメリカの社長さんなのだが、皆さんなかなか鋭い。
「なぜLHCは円形なのにリニアコライダーは線形なのか?」と言う質問には、「LHCは陽子と陽子を加速してぶつけるのに対して、リニアコライダーは電子とその反粒子の陽電子を加速してぶつける。陽子は電子の2千倍の重さがあるので、余り放射光を出さないから円形に回すことができるけれど、電子は高エネルギーに加速して曲げると放射光を出してエネルギーをどんどん失ってしまう。」と答えたが、どうして重いと放射光をあまり出さないのか、うまく説明できなかった。また、「中性子は電荷がゼロなのにどうしてその反粒子があるのか?」と言う質問には、「中性子は電荷はゼロだが、実はバリオン数という電荷のような量を持っていて、反中性子は中性子の反対のバリオン数をもっている。だから反中性子と中性子は別の粒子になる。光子の場合は、その反粒子が自分自身なので別の反粒子は存在しない。」と答えたが、ピンと来てくれただろうか。
一番皆さんの興味をそそったのは、ダークマターの話。宇宙の質量の80%がそこにある事はわかっているが、現在知られている素粒子のどれでもない事もわかっている。そして、そんな粒子の候補を予測する超対称性理論という新しい理論があるが、もしそれが正しいなら、国際リニアコライダーで実際に生成してその性質を詳細に調べることができる。その粒子の質量や電荷など、そして他の粒子との反応の仕方を測定する事によって、その粒子が宇宙創成ビッグバンの過程でどれだけ生成されて、今に至るまでにどれだけ残っているかが計算できる。その結果が宇宙の質量の80%ならば、ダークマターはこの粒子に違いないと言うことになる。
NTTさんが繰り返し言うには、「おもしろいなあ、そんな事がわかるのかあ。」。そして、国際リニアコライダーの建設費用が6千億円くらいと聞いて、「それって、安いんとちゃう?」との感想。これには狂喜した。多くの国民の皆様にもそう言って頂ければ、無上の喜びとなるのだが、、、。