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こころの医療宅配便 精神科在宅ケア事始

去る6月3日東京家政大学三木ホールにて開催された先端加速器科学技術推進シンポジウム 2010 in 東京『誕生 宇宙と生命』終了後、聴衆のお一人から『こころの医療宅配便 精神科 在宅ケア事始』(高木俊介著 文藝春秋刊)なる書籍を頂戴した。添えられたお手紙によると、 書籍を読んで現在の日本の精神医療の問題を理解し、改善活動への協力を要請したいとの趣旨で あった。もとより当協議会の活動趣旨は同氏の活動趣旨に適わず、協力の術はないのだが、 氏の発想と行動力に感服し、ここに御紹介する次第である。ご関心の向きは、同氏のブログ http://alberthawking.livejournal.com/ をご参照下さい。

自分自身に日本の精神医療の問題に関する知見はなく、ここで論評できる立場にないので、 純粋に書評という趣で首題の本を御紹介したい。内容は、本の帯にあるとおり『日本初、 「在宅ケアという革命」を起こした精神科医の、ちょっぴり心あたたまる活動記録』である。 心の病を患った人たちに対して誤解と偏見を与えかねない「精神分裂病」という病名を 「統合失調症」という病名に変更することに尽力した筆者は、大学病院を去ったある日、 ACT(Assertive Community Treatment)「包括型地域生活支援プログラム」に出会い、 京都に日本初のACTを立ち上げる。ACTとは、重い精神障害を抱え頻回入院や長期入院を 余儀なくされていた人々が病院の外でうまく暮らしていけるように、医療と福祉をあわせた チームで援助を行うやり方で、つまり、医療と福祉をパッケージで利用者の家に「出前」する。 それが、「こころの医療宅配便」なのである。

本の中で紹介される患者さんの話は、当事者や家族として直面したらさぞかし大変であろうと 想像するに難くないほど、「重い」話である。その「重さ」を深刻ぶらずに明るく語れるのは、 筆者のキャラクターだろうか。個々の結末はいろいろだが、何故かほっとさせられる。それは、 ACTのスタッフが援助を必要とした人々に届けたものが「こころ」であり、援助を受けた人々が ACTのサービスに見出したものが「希望」だと分かるからだろう。「統合失調症」は、100人に1 人の割合で発病するという。他人事では済まされない。

この本は、一般の人々があまりよく知らない、あるいは知りたがらない日本の精神医療の問題を、 ある意味分かりやすく伝えている。私自身このような形でこの本に出会わなければ、その事実を 知ることも、またかようなコラムをしたためることは無かっただろう。やはり、本という媒体の 力は強く、大きいということを再認識した。私たちも、一般の方々に馴染みの薄い加速器の意義と 役割を伝えようと努力しているが、そういえば専門書やNewtonの特集以外で、加速器の魅力を 分かりやすく伝える本に出会ったことが無い。どなたか、一般人が読みたくなるような 「加速器物語」を書いて頂けませんか?

 

(馬画人)

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