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ブルーオーシャンを探せ

早いもので、先端加速器科学技術推進協議会が設立されてからちょうど2年が経過したが、中核のモデルケースと定めた「国際リニアコライダー(ILC)計画」実現までには、あと数年はかかるものと想定される。それまでにILC計画をモデルとした技術開発の方向性を見極めて革新的な科学技術を創出するとともに、先端加速器科学技術の社会的貢献、即ち新しい応用製品やシステム技術を開発して社会を豊かにすることが求められている。然は然り乍ら、加速器ビジネスに携わる者として困るのは、加速器利用産業が未成熟で事業の継続、技術者の維持に難渋することである。日本電気工業会調べによると、2008年の世界の加速器装置の販売台数は約1300台、販売金額は約3500百万ドル(3200億円@\90/$)に過ぎない。しかも、需要はイオン注入装置(40%)と放射線治療装置(50%)という二大市場に集約される。因みに、日本市場はせいぜい500億円規模である。

一般的に試験用加速器などの特注品を扱うメーカは、保有するシーズ技術に対する潜在ユーザのニーズに疎く、売れる製品作りが苦手である。ニッチな特注品市場は、顧客が限定されている為マーケティングなど不要だからだ。しかしながら、市場の大小を問わず複数の競合メーカが存在すれば、限られたパイを奪い合うべく鎬を削ることになる。

ファーストプレス社刊「日本のブルーオーシャン」(安部義彦/池上重輔 著)によれば、『このように競合が存在する既存市場のことを「レッドオーシャン」と呼ぶ。「レッドオーシャン」では、市場の参加者は時に生き残りを賭けて文字通り血みどろの戦いを繰り広げることになるが、「労多くして功少なし」の結果に終わることが多い。対する「ブルーオーシャン」とは、いまはまだ存在していない市場のこと、換言すれば競争の存在しない未知の市場空間のことだ。企業にとっては「ブルーオーシャン=新たな需要」を創造することを意味する。市場の広さから得られる成長性、無限の可能性という意味において、ブルーオーシャンは広大で深く力強い「青い海」のようなものなのである。新しいユーザー層(主婦やおじいちゃん、おばあちゃん)を巻き込んで新しい需要を創造した任天堂のゲーム機Wiiは、ブルーオーシャンの好例である。』

この伝で言えば、加速器の市場を従来の延長線上で捉えているだけでは、産業レベルの規模(世界市場で兆円オーダー)に引き上げることは覚束無いだろう。加速器のもつ機能、「観る」(電子顕微鏡など)、「創る」(タンパク質の構造解析による創薬など)、「探る」(X線や中性子線による非破壊検査など)、「守る」(粒子線治療装置など)、「究める」(研究用など)にじっと目を凝らして、どこかに広がっているはずの「ブルーオーシャン」を探すことに注力しなければ、先端加速器科学技術の社会的貢献も看板倒れになりかねない。そのためには、応用のニーズをどのように開拓し対応していくかのシナリオを産官学が共有して研究開発に取組む必要がある。先端加速器科学技術推進協議会は、その格好の舞台となるはずである。「ブルーオーシャン」を探し求め続ける情熱とセレンディピティに溢れる役者たちの出番である。

 

(馬画人)

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