Columnコラム
南極物語
昨年放映されたドラマで最も視聴率を上げたのは「家政婦のミタ」。最終回は視聴率40%となり大きな話題を呼びましたが、残念ながら私は見ていません。私はちょうど同じシーズンに放映された「南極物語」に熱中していました。
このドラマは犬ぞり隊のタロやジロと観測隊員との深い絆のエピソードが大きな見所だったと思いますが、私は少し違ったところに注目しました。
初回のシーンだったでしょうか、木村拓哉扮する倉持岳志と柴田恭兵扮する白崎優が欧州で開催されている会議に出席して、日本の南極探検について話をする場面があります。参加各国から「敗戦国が何を言っている!」、「日本にそのような実力はない!」などといった罵声が浴びせられます。このときに受けた屈辱が後の倉持の大きな信念に繋がり、幾多の苦難を乗り越えていくのです。「日本が世界に誇れる国になるには、南極探検が必要なのだ。」という強い思いを抱き、やがてはこれが国民全体に広がっていきます。
戦後の荒廃から今の日本の繁栄を築き上げてきた先人たちの偉業は政治・経済の分野だけでなく、科学技術の分野にもあるということを知った視聴者も多かったのではないでしょうか?
実は、加速器の分野でも似たようなエピソードがあります。終戦直後、日本の加速器は原子爆弾の研究に使われるとの嫌疑をかけられ、GHQ によって海に投棄されてしまいました。この顛末は天満ふさ子さんも紹介されています。以来、日本は加速器による原子核物理や素粒子物理研究で世界に大きな遅れをとってしまうことになります。1951年、米国の研究者ローレンスの助言によって理化学研究所でサイクロトロンの建設が始まりようやく日本の加速器研究が再開されます。以後、先人たちの凄まじい努力によって、1986年には「TRISTAN」の建設により、世界一の性能の加速器を手に入れるまでになります。さらに、この「TRISTAN」をベースにして建設された「KEKB」の実験によって、南部・小林・益川のノーベル賞受賞にまでこぎつけたのです。
一生懸命努力する姿に素直にエールを送ることができるのは、我々日本国民の大きな美徳であると思います。多くの国民の皆様にこの「加速器物語」を知って頂き、日本が誇れる分野であることを伝えていきたいものです。
亀岡待卯