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【科学を伝えること】    広島大学  高橋 徹

広島では,マツダ財団と広島大学の協力による”科学わくわくプロジェクト”(通称”わくプロ”)という活動が行われており,その一環として中学から高校生を対象に科学に触れる機会を提供している。今年は、去る8月2日に広島市立こども文化博物館で、中学生向けに「サイエンスレクチャー広島 物理学からみた空想科学」と題する講演を行った。(その内容は物理屋往復書簡でも紹介しているので、ご参照乞う。)

テーマは、「物理学からみた空想科学」。素粒子や宇宙物理学への興味をもってもらうように、技術の進歩で実現できそうなことや宇宙ステーションなどの話を織り交ぜて、それに空想科学といえば、やはり「ビーム」は欠かせないので、ビームを作る道具=加速器という筋で、しっかり ILCも宣伝した。最後は、「反物質を作るのがいかに大変か」ということから「なぜ、そもそも宇宙に反物質は無いのか」という展開や、「超光速航行は可能か?」という問いかけから「時間や多次元空間の話」というように、素粒子や宇宙の基本原理と空想科学の関係を話した。

理科離れということが言われて久しいが,理科や科学に興味をもつ子供たちは決して少なくないと思っている。理科が嫌いな子供が増えたというよりも,世の中にいろいろな楽しいことや面白いことが増えたために,相対的に理科や科学を楽しむ子供の割合が減ったのではないだろうか。この仮定の真偽は定かではないが,多様化した社会の中で,特に若い子供たちが理科や科学に興味をもてる機会を増やす努力は重要だろう。

テレビなどで科学を解説する番組も決して少なくないが,これらは見た目が面白いことに重点おく傾向があることは否めない。それによって子供たちを引きつけることはもちろん重要なのだが,”わくプロ”では,中学生や高校生が本物の科学に触れることを通じて,”見て面白い”から、さらに進んで”考えたり工夫したりすることを楽しむ”企画を行っている。例えば,科学塾と称して大学の教員とセミナーや実験を行ったり,大学の研究室で実際に研究活動に参加してもらうなど,時間をかけ多少の苦労もしてもらいながら,なにかをやり遂げたり作ったりした達成感を味わってもらいたいと考えている。

科学の分野では、他の分野,例えば音楽やスポーツに比べて、この達成感を味わうことが少ないか、または達成感を味わう機会を提供することが難しいことが,科学を伝えるうえでの一つの課題ではないだろうか。子供たちに科学を通じた達成感を感じてもらい,もっとやってみる気になるような機会を提供することに大学の教員や研究者も努力していくことが,科学の発展につながると信じている。

そこで注意しなければならないのは,我々が科学の話をする場合,正確さを考えるあまり,話が難しくなる傾向があること。我々が日常使っている言葉も,一般の方,特に子供たちにとっては聞き慣れないものであることもしばしばだ。研究を伝えるのではなく,”聞いた人に興味を持ってもらう”ことや、”聞いた人が分かるような話をする”ことにどれだけ割り切ってできるか?これが鍵だろう。今回のレクチャー前後のアンケートの結果をみると,

レクチャー前 :理科がすき      91.8%

レクチャー後 :もっと好きになった  94.5%

という肯定的な回答だった。元々理科好きな子供たちをさらに好きにさせる事ができたという結果にほっとしている。また別の設問をみると,レクチャー後は,アニメに興味をもった人より,物理学により興味を持ったという回答の方が多かった。ちょっとできすぎの感があるが,勇気づけられる結果である。

少し自画自賛のようなことを書いたが,今回のレクチャーを準備する際に,仙台と広島で行った協議会シンポジウムでの各講師の方々の講演が非常に参考になった。またパネルディスカッションでの質疑応答も一般の方の疑問や興味を知る上で大変参考になっており,私自身がシンポジウムに出席したことが非常にプラスになっている。シンポジウムに出席していなかったらアンケートの結果も少し違っていたかもしれない。

「宇宙の謎の解明に挑む 日本の貢献」と題して、「宇宙を見る,宇宙に行く,宇宙を創る」をテーマとした協議会のシンポジウムは,このあと11月に福岡での開催が予定されている。多くの方々の出席を期待したい。

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