未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(10) 【日本学術会議ILC計画フォーラムより】

2014年8月22日

胆江日日新聞

“地表の話”もっとしよう 地域・環境の観点から(石川 幹子氏)

私はILCの国内候補地を選定する際に設置された「立地評価会議」で、研究者やその家族の暮らし、地域社会に与える影響について協議する社会環境基盤評価の委員を務めた。今回のフォーラムではあまり話題に上らなかったが、この分野の話は非常に大事な要素である。
「どういう環境に住みたいか」という考えには個人差がある。にぎやかな都会的な場所に住みたい人もいれば、山里で静かに過ごしたい人もいる。これをどう評価したらよいのかも課題になった。
東北と九州の両候補地を評価し、生活の質と文化については、顕著な差はなかった。将来的な都市構想を両地域とも作っていたが、私の視点から見ると、どちらも不十分な内容だった。生態系や景観、郷土の歴史や文化についての調査資料もほとんど出てこなかった。
ILCは極めて重大な国際プロジェクト。それを迎え入れることは、どのような意味を持つのか。実験の舞台となる“地下の話”と同じぐらい、人々の生活や文化の営みに関わる“地表の話”についても真剣に考えなくてはいけない。
かつて、都市と自然が共存するような世界が成立していた。しかし人口の増加や産業革命後の近代化によって、それは大きく崩れ「都市と田園とを画する道」と、「都市と田園とが交わる道」の二つに分かれ進むことになる。
前者は少数派だが、イタリアのシエナという町で一例を見ることができる。都市の中に自然はないが、一歩外へ出ると、条例で厳しく守られた田園景観が広がっ ている。都市の付属物として農地があるのではなく、農業自体に自立した力を持たせ、「都市は都市、田園は田園」という関係を成立させている。これを「文化 的景観」と呼んでいるが、ILC計画を進める上で大事なキーワードになると思う。
一方、後者はパリや東京などの多くの大都市は、都市と田園が交わる道を選択した。果たしてこの手法が成功しているのかどうか、あらためて考えてみる必要がある。
(つづく)

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