ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2018年06月04日

【一筆多論】 加速器が開く日本の未来 中本哲也

産経新聞

 

宇宙と物質の成り立ちに迫る大規模実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」を、日本に建設する計画が正念場を迎えた。

計画を推進する国際会議が福岡市で開かれ、世界の科学者たちは、岩手県と宮城県にまたがる北上山地へのILC建設に向けて、日本政府の決断を強く望む声明を発表した。

ILCは、日米欧など48カ国の科学者が国際協力による建設を目指す直線型の巨大加速器である。

計画では、北上山地の地下に建設する全長20キロの加速器内で電子と陽電子を正面衝突させ、ビッグバン直後の超高エネルギー状態を再現する。

時空(時間と空間の4次元)を超える新しい次元はあるのか-。宇宙は1つではなく、いくつも存在するのか-。物質に質量をもたらすヒッグス粒子を精密に測定し、宇宙の壮大な謎に挑むという。

建設候補地は5年前(平成25年)に、北上山地に絞られた。当時は全長30キロの加速器を計画し、建設費用は8300億円と算出された。日本政府は巨額の負担への懸念などから、ILC建設の可否判断を先送りにしてきた。

昨年11月に発表された新たな計画では、加速器の全長を20キロに短縮し、建設費も4割減の5千億円程度にまで抑えられた。

政府が慎重な態度を続けてきたのは、日本学術会議がILCの建設により「他の学術分野の停滞を招いてはならない」との見解を示したからだ。コストダウンが図られたとはいえ、全体の5~6割と見込まれる立地国の負担は重い。

日本の科学研究は近年、短期的な成果主義の蔓延(まんえん)で急速に活力を失い、危機的な低落傾向にあると国内外から指摘される。科学研究予算の大きな伸びは望めない。学術会議の懸念は日本の科学界の萎縮状況が反映されたものといえよう。

成長戦略、地方創生、東日本大震災からの復興、グローバル化-。日本は多くの課題に直面している。ILC計画は、これらの課題の突破口となる可能性があることに着目したい。

文部科学省の試算では、ILC建設に伴う経済効果は、建設期間と10年の運用期間の計20年間で2・5兆円を超え、15万人以上の雇用創出が見込まれる。

加速器科学は物理や数学の理論から先端工学までの多分野にまたがり、ものづくり、医療、農業、情報通信、環境・エネルギーなどに幅広く波及する。

地元の岩手、宮城両県にとって、地方創生と復興の大きな力になるだけではなく、科学技術と産業全般の「成長の種」になる。

また、ILC実験には、世界各国から数千人の研究者が携わり、1万人規模の「国際科学都市」が東北の山間地に形成される。

陸続きの国境を持たない日本にとって、グローバル化は宿命的な課題だ。研究者と住民らの息の長い交流は、日本の国際化に劇的な進展をもたらすだろう。

ILCは、現在の物理学の枠組みを超え「新しい物理学」の扉を開ける。

政府も科学技術予算の枠組みを超える広い視野でILC誘致を決断し、「新しい日本」の扉を開けてもらいたい。(論説委員)