ILCを東北へ(上)大詰め/科学の結晶、復興の力に

2013年1月24日

河北新報

東北の産学官による超大型加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の誘致活動が大詰めを迎えている。国内候補地は、岩手県南部の北上山地と九州の脊振(せふり)山地(福岡、佐賀両県)の2カ所で、今夏に一本化される。ILCは東日本大震災からの本格復興に貢献し、東北の未来を切り開く可能性を秘める。実現するには、東北全体で誘致の意義を共有し、機運を盛り上げる必要がある。(盛岡総局・久道真一)

◎技術確立、次は候補地

<待望の報告書>
 東京・秋葉原で昨年12月、世界中の素粒子物理学者が待ち望んだILCの技術設計報告書が発表された。
 研究者の国際グループがまとめた全文英語の報告書は1400ページと分厚い。最先端の超電導技術を駆使した加速器、微細な観測ができる粒子測定器の設計など、長年にわたる研究成果の結晶だ。
 「ILC建設の技術的な準備は終わった」。加速器の国際共同設計チーム責任者のバリー・バリッシュ氏(米国)は自信満々に語った。
 素粒子物理の世界では昨年7月、欧州合同原子核研究所(CERN、スイス)の「大型ハドロン衝突型加速器(LHC)」でヒッグス粒子とみられる物質が確認された。半世紀前に予言され、物質に質量を与えて宇宙を誕生させたとされる「神の素粒子」の発見。次世代加速器ILCの実現に向けた機運が高まった。
 ヒッグス粒子という研究対象が明確になり、技術は確立した。バリッシュ氏は「(ILC計画で)残る課題は候補地だけだ」と語った。

<誘致合戦展開>
 研究者の間では、建設地に日本が有力視され、北上山地と脊振山地のどちらかが国内候補地になれば、そのまま建設地となる可能性が高い。
 世界の潮流に合わせ、東北、九州の誘致合戦は活発化した。昨年、東北は産学官組織を研究会から推進組織「東北ILC推進協議会」に改編し、将来ビジョンをまとめた。九州は研究会の構成県を福岡、佐賀から九州全県と山口、沖縄まで広げた。いずれも照準は国内研究グループが今夏予定する候補地一本化だ。
 「ILCは世界とつながる復興プロジェクト。オール東北として(誘致を)お願いしたい」
 青森、岩手、宮城、福島の被災4県が今月15日に行った国への要望で、達増拓也岩手県知事が関係閣僚らに訴えた。

<建設費8000億円>
 建設費8000億円のうち半分は立地国が負担しなければならず、国はこれまで科学者たちの動きを静観してきた。4県の要望から3日後の18日、国内誘致に向けて大きく動きだした。
 下村博文文部科学相は閣議後の記者会見で「わが国として、ぜひ日本に誘致したい」と述べ、関係国に協力を呼び掛ける考えを示した。事実上の誘致表明だった。
 東北ILC推進協議会は今後、ILC誘致に伴う具体的なまちづくりを検討する。研究機関を核とする国際都市の形成に伴う経済波及効果や雇用増に加え、新産業の創出も期待される。
 「国内候補地が一本化される、この半年が勝負」と推進協事務局の有原常裕東北経済連合会産業経済グループ部長。「ILCの波及効果は岩手以外にも広がり、震災復興を進める東北の大きな希望になる」と話す。
 推進協は岩手、宮城両県中心だったセミナーを東北他県に広げるなど、誘致活動を強化する。

[ILC]全長31キロの地下トンネルに設置する線形加速器。電子、陽電子をほぼ光速で衝突させ、発生する粒子を調べて宇宙の成り立ちを探る。建設費は約8000億円。国際協力で世界に1カ所建設する。最大50キロまで延長できる。