国際リニアコライダー誘致 脊振・北上綱引き

2013年7月3日

読売新聞

宇宙の始まりを再現する大型実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」を誘致し、世界の科学者が集まり、関連産業が育つ国際都市をつくろうと、 東北の北上山地(岩手県、宮城県)と脊振山地(佐賀県、福岡県)が綱引きしている。日本はILC建設の最有力候補地と国内外の科学者からみられており、7 月中にも国内の科学者らで作る「ILC立地評価会議」が地質や環境基盤の調査結果をもとに候補地を一本化する。

昨年7月、質量の起源とされる素粒子「ヒッグス粒子」が、スイスのジュネーブ近郊にある「欧州合同原子核研究機関(CERN(セルン))」の大型ハドロン衝突型加速器(LHC)で発見された。このLHC以上の性能を持つ加速器で、宇宙全体の27%を占める謎の「暗黒物質」の正体である素粒子などを見つけようというのがILC計画だ。

現在の計画によると、東京―横浜間に相当する全長31キロの地下の直線トンネルの両端から加速した粒子を中央部で衝突させ、飛び出した素粒子を詳しく観測する。今年6月に設計報告書が完成し、建設に向けた動きが活発化している。

ILCは世界1か所だけに建設される。日本ではトンネル建設に適した強固な花こう岩が広範囲に広がる北上山地と脊振山地の2か所が候補だ。

北上側の岩手、宮城の両県は2011年の東日本大震災の直後から、ILCを復興の起爆剤と位置づけ、復興計画に盛り込んできた。海外からの科学者 数千人が居住する国際学術都市をつくり、ILCに不可欠な加速器、検出器に関連する半導体などのハイテク産業を集積させるという構想だ。

野村総合研究所の試算によると、ILCは建設・運転の計30年間で日本全国に4・3兆円の経済波及効果、約25万人の雇用創出が見込まれる。地元 への影響も大きく、岩手県の大平尚・首席ILC推進監は「被災地を含む東北再生に向け、人口減や高齢化への歯止め、観光客誘致にも効果が期待できる」と話 す。

一方の脊振側も、お手本となるCERNを5月に古川知事と福岡県の小川洋知事が訪問。「脊振周辺は英語で受診できる医療機関が多数あり、海外の研究者も暮らしやすい」とアピールした。

佐賀、福岡両県は誘致の効果として、〈1〉世界最先端の知が集積する国際学術都市が創出される〈2〉青少年の科学への好奇心を高め、次世代の科学 者や技術者が育成される――などを期待している。古川知事は脊振山地の強みについて、「道路網や学会を開催できる規模のホテルなど、基盤が整っている。研 究者や家族の滞在施設も、都市部や農村部など多様な選択肢から提供が可能」と語る。

ILCの候補地は海外にもあるが、30年頃までLHCの運用を続ける欧州や、素粒子研究予算が伸び悩む米国の科学者は、日本での建設に期待を寄せる。

課題は8300億円といいう巨額の建設費。立地国の負担額は決まっておらず、下村文部科学相は「日本だけでは対応が難しい」と慎重だ。参加各国の資金負担の枠組みがまとまれば10年代後半に建設が始まり、約10年で完成する。