ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2012年11月19日

ヒッグス粒子」確定近づく 質量の起源立証へ前進

日本経済新聞

国際チームが最新成果を発表

万物の質量の起源とされる「ヒッグス粒子」発見の最終確認に向けて検証が進んでいる。素粒子物理の国際会議が11月12~16日に京都市で開かれ、日本も参加する国際共同チームなどが実験の最新結果を報告した。手堅くデータ解析を進めているのか、結果の発表や解釈には慎重な印象を受けた。それでも、新しい粒子パターンがはっきりしてきたほか、ヒッグス粒子特有の性質も少し見え始めてきた。今年7月に発表した新粒子がやはりヒッグス粒子である可能性はさらに高まった。

実験に取り組んでいるのは欧州合同原子核研究機関(CERN)の国際研究チーム。スイスのジュネーブ郊外にある巨大な加速器「LHC」(大型ハドロン衝突型加速器)で光速近くにまで加速した陽子同士を衝突させ、飛び散る様々な粒子を検出してヒッグス粒子の痕跡を調べている。ただ、ヒッグス粒子は出現しても一瞬で壊れてしまい、直接検出はできない。そこで、壊れて現れる他の粒子と反粒子のパターンを解析して間接的にヒッグス粒子を探す。

京都大学で開催された国際会議「ハドロン・コライダー・フィジックス・シンポジウム」で、東京大学や高エネルギー加速器研究機構など日本の16大学・研究機関が参加する「ATLAS(アトラス)」チームや、欧米を中心とする「CMS」チームが解析結果を発表した。実験の衝突回数は7月の合計約1100兆回から、今回は約1800兆回と2倍近くに増えた。

実験で調べている検出対象のパターンは5種類ある。「ヒッグス粒子とみられる新粒子を発見」と発表した7月のときは光子のパターンと、素粒子の「弱い力」と呼ばれる力を媒介するZ粒子のパターンの2種類がはっきりしていた。

今回は同じく弱い力を媒介するW粒子のパターンの解析が大きな成果。「7月はおぼろげだったが、今回ははっきり見えてきた」とアトラスチームの浅井祥仁・東京大学准教授は解説する。残る2種類は電子の仲間であるタウ粒子のパターンと、物質を構成する素粒子クォークの1つであるボトムクォークのパターン。これらも何となく見え始めているが、まだはっきりしていない。

ヒッグス粒子と確認するにはさらに、新粒子の性質を詳しく突き止める必要がある。「スピン」(自転)と呼ばれる性質で、その値が光子は「1」、クォークや電子は「2分の1」などと決まっている。ヒッグス粒子だけは特殊で「0」だ。今のところ発見した新粒子はスピンが「0」か「2」ということが分かっている段階。今後どちらなのかを確かめる必要があるが、今回は「スピン0をにおわせる結果」(浅井准教授)という。

また、ヒッグス粒子が他の素粒子と結合する強さも確認する必要がある。素粒子物理の基本である標準理論では、宇宙はヒッグス粒子が満ちたような状態で、これが素粒子にくっつき、動きを邪魔することで、素粒子に質量を与えると説明される。

従って重い素粒子ほどヒッグス粒子は結合しやすく、それが5種類のパターンにも現れるはず。もし違っていたら、発見した新粒子は質量の起源ではない何か別の粒子ということになってしまう。今回もまだ確定はしていないが、7月よりさらに標準理論の通りになってきたという。

アトラスチームの日本グループ共同代表者の1人である小林富雄東大教授は今回の成果について「実験的には標準理論のヒッグスに一歩近づいた。(結論まで)あと2、3歩」と表現する。ヒッグス粒子確定は来年2~3月になるとみられている。

一方で、今回はややお預けになったものもある。標準理論を超える新理論「超対称性理論」だ。標準理論だけでは分からない謎である宇宙のダークマター(暗黒物質)や暗黒エネルギーなどの解明につながると期待される理論だ。

実は新粒子を精密に調べる中で、ほぼ標準理論の通りになりながらも、少し違うズレが見つかれば、それが新理論の手がかりになる可能性がある。だが、今回の結果は新粒子が標準理論そのままのヒッグス粒子であることを一段と示しており、超対称性理論の兆候は見られなかったという。

また、こうした間接的な兆候だけでなく、LHCの実験では超対称性理論で存在するはずの未知の粒子を直接見つける研究もしているが、これまでに探した一定の質量の範囲にはないことが今回の国際会議で発表された。もっと質量の重いところを探す必要があるという。

こうした結果は超対称性理論が間違いといったことを意味するわけではないが、新たな展開までにはもうしばらく時間がかかりそうだ。

今後、国際チームは実験を12月まで続ける計画。そのデータも含めた来年2~3月の成果が期待される。さらにLHCは来年以降、衝突エネルギーを現在の8兆電子ボルト(電子ボルトはエネルギーの単位)から14兆電子ボルトにまで高める工事に入る。実験再開は2014年の予定。より高いエネルギーで見えてくる新現象も今から楽しみだ。