ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2012年09月12日

岩手へ巨大実験施設(ILC)を

朝日新聞

宇宙誕生の謎に挑む巨大実験施設、国際リニアコライダー(ILC)を岩手県北上山地に誘致しようとする動きが本格化している。国際的な学術研究都市が生まれ、地元では4兆円を超える経済波及効果があると期待されている。福岡・佐賀両県にまたがる脊振山系を候補地にする九州との誘致合戦も熱を帯び始めている。

経済波及効果4.3兆円

岩手県奥州市で8月末、ILCの講演会が開かれ、野村総研社会システムコンサルティング部担当部長の北村倫夫氏が、「ILCを核とした東北の将来ビジョン」と題して講演した。

経済波及効果は4・3兆円。延べ25万人の雇用が生まれる。会場を埋めた350人の聴衆を前にこのように強調しながら、「東北に新しい文化を打ち立てよう」と訴えた。

誘致には、日本、米国、欧州が動きを見せている。

有識者による日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)は7月半ば、日本に誘致し、地方活性化につなげるべきだとの提言を発表。増田氏は「地方にグローバルな都市をつくろう。世界から資金と人を呼び込もう。産業空洞化が進む地方都市を立て直そう」と呼びかけた。

実験装置の建設には強固な地盤が不可欠で、北上山地と脊振山系の2カ所が誘致に名乗りを上げている。

北上山地への誘致を目指しているのが、産学官の関係者による東北ILC推進協議会。7月初めに仙台市で開かれた設立総会で、代表の里見進・東北大総長は「東北の力を結集して誘致を実現したい」とあいさつした。岩手県の達増拓也知事が誘致への決意を述べ、宮城県の村井嘉浩知事が支援を約束した。

総会の場では、こんな構想が発表された。

計画期間は30年。関係する地域は、施設周辺の「中心範囲」、その外側の「中域交流範囲」、東北全体が含まれる「広域連携範囲」に分かれる。「中心範囲」には、人口1万人ほどの国際学術研究都市が誕生する。「中域交流範囲」は仙台市、盛岡市に広がり、「広域連携範囲」は東北6県と新潟県までを含む。誘致をめざす関係者は、7県の大学を研究拠点にしながら加速器関連産業が伸び、集積が進む自動車、半導体産業の技術革新を後押しして東北全体の産業基盤が強化されると思い描く。

世界各国から研究者や家族が集まることで、国際交流や観光への波及効果も期待する。

岩手県政策推進室の大平尚・首席ILC推進監は次のように指摘する。「21世紀の科学を切り開く一大プロジェクト。北上山地への誘致に成功するなら、東北が大きく変わるきっかけになるはずだ」

復興のシンボル期待

建設地が北上山地に決まれば、トンネルは宮城県気仙沼市を南端に、岩手県一関市、奥州市に延びる。このため、一関市と奥州市の誘致に向けた動きが活発だ。

一関市はポスター、チラシを作り、7月から市民向けにILCニュースを発行。学術研究都市構想の検討も始めた。奥州市では市民有志が1月、いわてILC加速器科学推進会議を設立した。市内には国立天文台や、宮沢賢治にちなんだ奥州宇宙遊学館がある。推進会議顧問の大江昌嗣氏は「宇宙に思いをはせた賢治さん。宇宙誕生の謎を探るILCを故郷の岩手県に誘致できれば素晴らしい」と話す。

岩手県は震災復興を前面に掲げて誘致合戦に臨んでいる。

東北ILC推進協は8月、政府にこう要望した。「このプロジェクトを東北の復興に向けたシンボル事業として、北上山地で実現してほしい」

大平・首席ILC推進監はこの春、陸前高田、大船渡、釜石市を訪れ、誘致への協力を求めた。過疎、高齢化が進む三陸沿岸を襲った大津波。大平氏は、ILCが人口減少に歯止めをかけ、雇用の場を生み出すチャンスになると考えている。

ライバル九州も熱気

一方、福岡、佐賀両県は九州地方の産学官による先端基礎科学次世代加速器研究会を中心に誘致をめざす。

今年3月には経済波及効果を試算したサイエンスフロンティア九州構想をまとめ、8月には福岡市内で市民対象のサイエンスカフェを始めた。10月には、ヒッグス粒子と見られる新素粒子を発見したと7月に発表した欧州合同原子核研究機関(CERN、スイス)の所長を招きシンポジウムを開催する。

福岡県新産業・技術振興課の野田幸治・参事補佐は「福岡県はアジアの玄関口で国際交流が盛んだし、新たに大都市を造らなくても、すぐに研究に入れる利便性がある」と訴える。

CERNは円形型の巨大な加速器で衝突実験を重ねており、ILCはこの次世代で、精密な研究が可能になる。誘致合戦は、お茶の間の話題になった新素粒子発見を追い風にして激しさを増しそうだ。(但木汎)

国際リニアコライダー(ILC) 

全長30~50キロの直線のトンネルを地下100メートルに建設し、電子と陽電子を光速に近い速度まで加速させて衝突させる。衝突で宇宙誕生のビッグバン直後の状態を再現させ、宇宙創成や物質誕生の謎に迫る。2004年、世界の研究者たちが、一つだけ造ることで合意。15年ごろ、建設場所が決まる。建設期間10年、運用期間20年、建設事業費は8千億円の見込み。

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