ILC計画 九州を宇宙研究の拠点に

2012年5月24日

西日本新聞

「国際リニアコライダー」(ILC)計画とは、宇宙誕生の謎を解明する国際プロジェクトのことだ。

 アジアや北米、ロシアの計17カ国と欧州連合(EU)各国が協力し、世界最大のリニアコライダー(直線衝突型高エネルギー粒子加速器)を設置する。

 装置を使って光速まで加速された電子と陽電子を正面衝突させ、宇宙の始まりの大爆発「ビッグバン」と同じエネルギーのかたまりを生み出させる。文字通り壮大なプロジェクトである。

 このILC建設候補地の一つに挙がるのが福岡、佐賀県境の脊振山系だ。

 建設が実現すれば、世界中の研究者や学生が集い、北部九州が宇宙研究の拠点となる可能性を秘める。総事業費は7千億~8千億円ともいわれ、地域経済への波及効果も極めて大きい。

 佐賀、福岡両県や九州経済連合会、九州大、佐賀大など産官学一体で誘致に乗り出しており、期待したい。

 現在世界最大で最高性能を備えるのは、スイスのジュネーブ郊外地下にある欧州原子核研究機構の円形型加速器だ。昨年12月、同加速器で万物に質量を与えた役割を持つとされる「ヒッグス粒子」の存在をうかがわせる確度の高いデータが発表されたことは、記憶に新しい。

 ILCは、スイスの円形加速器よりさらに高性能な次世代型装置だ。固い岩盤の地中に一直線にトンネルを掘り、全長約40キロの真空管を設置する。人工的なビッグバンで噴出するさまざまな新しい粒子を正確に観測し、宇宙や物質などが誕生した謎の解明に挑むという。

 一時は日米欧それぞれに建設構想があったが、巨額な資金が必要なため、世界に1カ所建設することで合意、2002年に日米欧などの物理学者でつくるILC運営委員会が発足している。

 建設地は活断層が無いことや電力の安定供給などが条件となる。日本物理学会が10年9月、脊振山系と岩手県・北上山地を国内候補地として発表した。他に海外で数カ所の候補地がある。

 北上山地は東日本大震災からの復興シンボルにも位置付けられており、国内では強力なライバルとなりそうだ。

 ただ、脊振山系はアジアに近い北部九州に位置し、福岡市など拠点都市も控えて交通網も整備されている。地の利やインフラなど有利な点も多くあるはずだ。今後の展開に注目したい。

 宇宙や物質など構成する最小単位の素粒子研究は、産業化に直結しない基礎研究だ。日本に誘致できれば、従来応用研究に偏りがちだった日本の科学技術の在り方を見直す上でも、意義深い。

 ILCの加速器技術設計と、測定器の詳細基本設計は今年中には完成する予定で、九大では23日~25日に国内外の研究者が集まって国際会合も開かれる。

 同大では学内に専門研究グループを設けるなど受け皿づくりも進む。私たちも、関心を持って見守っていきたい。=2012/05/23付 西日本新聞朝刊=  西日本新聞サイトへ