ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

宇宙を知る

ヒッグスだけじゃない!ILCが解明するいろいろ

暗黒物質の正体を探る

ヒッグス粒子を精密に測定するのは、ILCの得意分野のほんの一部。ILCに解明の期待が掛かっている数ある研究のひとつが「暗黒物質(ダークマター)」です。なんと、現在の宇宙を構成するもののうち、私たちが知り得ているのは全体のわずか5%に過ぎません。残り95%のうち23%は「暗黒物質」72%は「暗黒エネルギー(ダークエネルギー)」であると考えられています。

暗黒物質は、その名のとおり「目に見えない物質」です。これまでの天文観測で、宇宙には目に見えない何か、があることが解っています。目に見えない物がどうして「ある」と解るのか?それは計算が合わないからです。銀河の回転速度を調べると、銀河にはどのくらいの質量があるべきなのか算出することができます。一方、宇宙の星や銀河の数はだいたい解っているので、それらの質量を算出することも可能です。この2つの数字は一致するべきなのですが、なんと約10倍も違っているのです!このことから、星などのように目で見えるもの以外にも何かあるはずだ、という結論に至り、この「目に見えない何か」が暗黒物質と呼ばれています。

暗黒物質の候補としては諸説ありますが、ILCで発見が期待されている超対称性粒子の「ニュートラリーノ」だという説が有力です。この粒子は超対称性粒子の中で一番軽い、つまり一番低いエネルギーで創り出すことができる「超粒子」です。この「超」は、究極の素粒子理論かもしれないと期待されている、「超弦理論」の「超」です。ILCなら、この暗黒物質を人工的に創り出す様子を捉えられるかもしれないと期待が掛かっています。暗黒物質かもしれない「ニュートラリーノ」は、実はヒッグス粒子の影の世界、「超ヒッグス粒子」とも言えるものです。ここでもヒッグス粒子が関係してきます。

「色」の無い粒子を探す

実は、暗黒物質は、もしかしたらLHCですでにたくさん創られているのかもしれません。でも暗黒物質だけができる場合は、LHCが陽子を衝突させる加速器であるということで、原理上それを見いだすのはとても難しいことなのです。そこでLHCは、沢山できると考えられる超クォークなど(「色」を持つ新粒子)が暗黒物質に壊れていく様子を調べて、これを探そうとしています。LHCのこれまでの結果から、超クォークなどを創るにはさらに高いエネルギーが必要だということがわかっています。

LHCは2013年から加速器を改造してエネルギーを2倍近くまで上げます。さらに衝突頻度(データ量)も格段に上げていく計画です。ここで超クォークなどの新粒子が発見されることを世界中が期待しています。一方、ILCは「色」を持たない粒子も確実にとらえることができるため、暗黒物質(「色」を持たないことは理論的にわかっています)そのものが創り出される場合も調べることができるところに、大きな特徴があります。それは超対称性理論で予言されるものだけに留まりません。わずかでも新粒子ができればそれを確実に見つけることができるという、ILCの特徴が遺憾なく発揮されます。

ILCでは「ヒッグスを解剖」しながら「暗黒物質」も見つかるかもしれないのです。暗黒物質の候補となる新粒子は、LHCで見つかるか、ILCで初めて見つかるのか、それはまだ誰にも分かりません。でももしそれを創り出すことができれば、その時にはさらに、暗黒物質がどうやってできるのか、どれくらいできるのか、どういう粒子なのか、ちょうど「ヒッグスを解剖」するようにILCで「暗黒物質を解剖」することもできるのです。そうするとILCが測定する暗黒物質候補粒子と宇宙観測の結果と比べることで、その粒子が実際に宇宙に満ちる暗黒物質なのか、それで全ての宇宙の暗黒物質を説明できるのかが分かることになります。暗黒物質の正体を探る!これはヒッグスと並んでILCの大きなテーマのひとつです。

 

ダークエネルギーの謎に迫る

宇宙の大部分を占める「ダークエネルギー」は、宇宙がどんどんスピードを上げながら膨張している、「加速膨張」を引き起こす要因と考えられている、謎のエネルギーです。1998年、遠くの銀河に出現したIa型超新星の観測をしていた研究者たちは、それらの銀河がこれまでの理論から予想される速度より速く遠ざかっている、という奇妙な事実に気がつきました。この現象が起きるためには、宇宙を膨張させる力が宇宙空間にあると考えざるをえません。ところが、その力が何なのか、どんな仕組みで起きているのかは全く解っていません。

どうして宇宙の加速膨張が起きているのか?ダークエネルギーの産まれる仕組みは何か? なにかが真空でおこっているはずだ!この謎をヒッグス粒子の仕組みをモデルにして解明できるのではないだろうか?と考える物理学者がいます。超対称性などの物理法則が関係しているのかもしれません。まだ具体的な糸口はなにも見えていないからこその挑戦で、わずかな入り口でも見つかれば世紀の大発見となります。宇宙観測からその糸口を見つけようとする試みもあります。LHCでも挑戦していきます。そしてILCでは「ヒッグスを解剖する」ことで、あるいは「暗黒物質を創り出す」ことで、現在は全く何も解っていないダークエネルギーの秘密のベールを一枚はぎ取ることができるかもしれません。40年前に標準理論が提唱されてからその法則を極めてきた長い道のように、新しい道、挑戦が私達を待っています。

 

人知を出し抜く「自然」に挑戦する

ダークマター、ダークエネルギーの他にも、現在私たちが認識できている4次元を超える「余剰次元」の存在や、他の素粒子と比べて飛び抜けて重たい「トップクォーク」はどうしてそんなに重いのか?といったILCで挑戦する大きな課題はたくさんあります。(ILCの挑戦課題について、詳しくはKEKの国際リニアコライダー(ILC)の物理をご覧下さい)

2008年にノーベル物理学賞を受賞された南部陽一郎博士は、数々のすぐれた理論的アイデアを提唱されています。ヒッグス粒子の理論のその根本にあるのも、南部博士の「自発的対称性の破れ」の考えです。その南部先生のお言葉に「自然は人知を出し抜く」というものがあります。これは「これまでに人類が自然はこのようになっているだろうと思い描き、期待して、実験をしてみると、実はそれとは全く異なった姿をしていることがわかった」ということが繰り返されているという歴史的な事実を述懐されたものです。

ヒッグス粒子は人類の期待通りに存在していそうです。しかし、その先に関しては、素晴らしい予測はあるものの、やはり期待にすぎません。人類のもっている壮大な期待が、本当なのか?まず、LHCがこれまでに誰もみたことのない世界に踏み込みます。LHCはそこに踏み込むために、陽子と陽子の衝突という方法を使っています。その姿はジャングルのなかをかき分け、かき分け進む姿に似ています。次にILCが飛び込みます。ILCは電子と陽電子の衝突なので、とても見通しのよい大きな道を作りながら進んでいけます。遠くの景色もよく見えます。道に落ちているダイアモンドの指輪も見落とすことがありません。何より重要なことは、道がはっきり見えているので、どちらにすすむのかがはっきりしていることです。ILCの道によって連れられていく先は、南部先生のおっしゃるように、きっと人知を出し抜く思いもつかない世界でしょう。