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ILC国際設計チーム前リーダー バリー・バリッシュ氏 米国LIGOによる重力波の観測でノーベル物理学賞を共同で受賞

前ILC国際設計チームディレクターのバリー・バリッシュ氏が2017年度ノーベル物理学賞を受賞されました。おめでとうございます! バリー・バリッシュ氏は2012年12月15日にILC設計報告書(TDR/DBD)完 成発表会(東京)において ILCSC 議長のジョナサン・バガー氏に最終ドラフトを手渡ししました。 詳しくは、ILC通信のページをご覧ください。 受賞対象の重力波観測について、昨年の観測発表直後にAAAコラムでも紹介していました。同氏の受賞をお祝いして同コラムを再度掲載いたします。 なお文中、残念なことに失われてしまった天文衛星「ひとみ」にも触れていたり、過去のイベントに触れていたりしていますが、当時の興奮と今後の発展への期待もこてそのまま掲載いたします。

祝!重力波観測 (2016年2月22日掲載)

2016年2月11日と12日に米国ワシントンDCで、US-Japan Forum on Advanced Science & Technology(先端科学技術に関する日米フォーラム)が開催され、私たちAAA関係者もワシントンで大忙しでした。これについての速報はInternational Linear Collider FaceBook pageに掲載されています。近いうちにLC NewsLineにも詳細が報告されると思います。 このフォーラムの初日、同じワシントンDCで、LIGO共同実験による、史上初の重力波の直接観測という大ニュースが発表されました。実際に観測されたのは昨年2015年9月14日とのこと。重力波というのはアインシュタインの一般相対性理論が予言する空間の揺らぎです。一般相対性理論を発表されたのが1916年ですから、100年後の大発見でした。フォーラムのために渡米していた研究者も、内心はこちらが気になって仕方がありません。この話、ILC関係者にも感慨深いものがあります。LIGO実験が認可された当時の主任研究員であり、同研究所の所長を1997年から2005年まで務めたBarry Barish氏は、ILC国際設計チーム(GDE)のディレクターとしてILCの技術設計報告書を作り上げた中心人物の一人なのです。記者発表会見の会場にもいたようです。こちらのフォーラムにも当然招待されていたのですが、あちら優先なのは仕方が無いでしょうね。LC NewsLineには重力波についてのBarish氏のメッセージが即日掲載されました。 重力波とは何か?と言われるとなかなか返答に困ります。私の年代だと、宇宙戦艦ヤマトの中で、ワープ航法なるものを説明する場面が浮かびます。これはNASAのホームページにある重力波のアニメーションです。時空の曲がりを平面の曲がりで例えるのが一番わかりやすいようです。 それでも、ヒッグス粒子の説明でよく使われる、素粒子にまとわりつく、水あめとか綿雪といった例えよりもまし?でしょうか。 重力波の発見はどんな意味があるでしょう。 第一はアインシュタインが100年前に発表した一般相対性理論の検証です。重力波の観測はとても難しいのです。今回観測されたのは、二つのブラックホールが一つに合体するというとてもとても大規模な現象ですが、それによって起こった空間の揺らぎの大きさは、地球と太陽の間の距離を原子の大きさくらい変える程度という、途方もなく小さいものです。こんな小さな変化を観測できるというのですから、大変な技術です。 今回の発見は、重力波の初観測という他にも、重力波による宇宙の観測ということがとても重要です。観測された重力波は、「13億光年先で、太陽質量の 36倍のブラックホールと29倍のブラックホールが合体し、太陽質量の62倍のブラックホールになった(足し算の合わない36+29-62=3太陽質量分が重力波のエネルギーとして放出された)」そうです。そんなことまで分かるのですね。二つのブラックホールが合体するという劇的な天体現象を重力波で”見た”のです。これまで天文観測は、光、電波、X線、ガンマ線などで行われてきました。その他にも宇宙から飛んでくる宇宙線やニュートリノの観測もありましが、新たに重力波という”目”が加わりました。重力波天文学の幕開けです。我が国でもKAGRAという重力波観測装置(重力波天文台と言っても良いかもしれません)が建設中です。重力波天文台や電磁波天文台(光、電波、X、ガンマ線を合わせてこう呼びましょう)、素粒子天文台(宇宙線やニュートリノですね)が協力して宇宙を見る時代になりました。おりしも昨日(2016年2月17日)日本の新しいX線天文衛星ASTRO-Hが打ち上げに成功し、「ひとみ」と名付けられました。新しい天文学が宇宙のどんな謎を解き明かしてくれるのでしょうか。楽しみです。   重力波は素粒子物理学で研究しているような、宇宙創成の謎の解明に役立つ可能性もあります。重力波によって宇宙の極初期の様子を見ることができるかもしれないのです。それには、今の重力波検出器の感度をもっともっと上げなければなりません。でも、ILCが目指す加速器を使った素粒子実験と重力波やニュートリノ天文台が協力して宇宙創成の謎に迫る日が来ることを期待したいところです。とにもかくにも、LIGOグループの皆さんの快挙を祝福したいと思います。近い将来我が国でもKAGRAがLIGOをしのぐ感度で成果を挙げることを期待しましょう。 大変遅くなりしたが、本年最初のコラムとなりました。皆様のご健康とますますのご発展をお祈りいたします。本年もよろしくお願いいたします。 追伸: 本年5月末から6月初めにスペインのサンタンデールで行われるリニアコライダー国際研究会に合わせて日本とスペインの企業の方々の加速器科学技術やその関わりに関する情報交換をする会が計画されています。詳細は決まり次第お知らせいたします。会員の方々におかれましては、是非参加のご検討をお願いしたく存じます。

広島大学 高橋 徹 先端加速器科学技術推進協議会 広報部会副部会長

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