2015年12月3日

超伝導加速空洞を見学しました

 

 10月は、うれしい月でした。大村智先生のノーベル生理学・医学賞、梶田隆章先生のノーベル物理学賞と2日連続の日本人受賞となりました。
 梶田先生の授賞理由は「ニュートリノに質量があることを示すニュートリノ振動の発見」でした。純粋基礎科学に光があたり、更に理解が深まれば、と願います。


 次はILCですね。以前超伝導加速空洞の製造現場を見学するという貴重な体験をさせていただきましたので、記しておきます。


 ちょうど1年前、この先端加速器科学技術推進協議会の初代事務局長をされた有馬雅人様の計らいで、三菱重工三原製作所の加速器の製造現場を見学させていただきました。なんとあの超伝導加速空洞を見せてあげるとおっしゃるのです。

 超伝導加速空洞は、ILCのコア技術です。この超精密機器はつくばか茨城辺りの工場で作られていると勝手に思っておりましたので、広島県三原市で製作されていることを知り驚きました。自宅から三原まで、在来線に乗って2時間ほどの距離です。
 超伝導加速空洞を初めて見たのは、ちょうど10年前KEK(高エネルギー加速器研究機構)のオープンデーでした。広い構内を走るバスに乗ってやっとそのブースにたどりついたのです。人が少なかったので、じっくりそばで見ることができました。イモムシみたい、と思ったものです。


 現場ではまずクリーンウェアの上衣を着用します。 帽子と靴カバーも装着します。加速管にとってチリや埃は禁物です。初めに見せていただいたのが「常伝導Cバンド加速管」でした。理化学研究所のX線自由電子レーザー、SACLAで使われているのと同種類のものです。銅色に光る美しい細長い管です。楽器のようだな、と思いました。音が出そうな気がしたのです。

常伝導Cバンド加速管


 次に見せていただいたのは、「常伝導Sバンド加速管」でした。パーツのひとつである丸いディスクは最後、薄皮を剥ぐように熟練者が超精密旋盤で切削(せっさく)で仕上げていることを知りました。近くで見ると高純度の無酸素銅でできているため、まるで鏡のようにピカピカと光り輝いていて、自分の顔が映ります。削りカスを見せてくださったのですが、金属の屑というよりは、ふわふわした綿毛のようでした。表面の粗さは、サブミクロンという単位(1/10,000mm)で髪の毛の太さの100分の1以下だそうです。あまりの繊細さ、緻密さに頭がクラッとしたほどです。加速器の部品を作っているというよりは、伝統工芸品の工房に居合わせたような気分になりました。

切削したディスク


 いよいよ、超伝導加速空洞の製作現場に入ります。ここではクリーンウェアの上衣だけでなくズボンも着用します。帽子もかぶり、手袋をはめ、靴も履きかえます。それだけでなく部屋に入る前に狭い個室に入りました。すると頭上からも足元からも、勢いよく空気が吹き付けられます。初めてエアーシャワーを体験しました。それからクリーンルームに入ります。広い体育館の様なところです。

 そこに超伝導加速空洞が数台置いてありました。希少金属であるニオブ材が鈍い光を放っています。この超伝導加速空洞が16,000本並んで電子と陽電子に高周波電力を与え、限りなく光速に近いところまで加速していくのです。

超伝導加速空洞


 1987年に小柴先生がニュートリノを世界で初めて観測されたときの言葉を思い出しました。


 あまり幸運だ、幸運だとばかり言われると、それはちがうだろう、と言いたくなる。幸運はみんなのところに同じように降り注いでいたではないか、それを捕まえられるか捕まえられないかは、ちゃんと準備していたかいなかったかの差ではないか、と。(「物理屋になりたかったんだよ」より)


 超伝導加速空洞の生産の準備はできている、と思いました。


 前回執筆の馬画人さん同様、自分もILCに関わって12年めに突入します。
 日本に建設できたらと、つくば市や東京へ出掛け、挙句の果てはイタリアのFrascati 研究所まで行ってしまいました。パリの同時多発テロの悲報を聞くにつけ、各国が力を合わせて宇宙の謎に挑むという国際共同研究の理念の高さを噛みしめています。
 来年こそはILC建設の朗報を聞きたいものです。

                                  

                                 (写真提供: 三菱重工メカトロシステムズ)


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天満 ふさこ