2015年9月14日

時間距離

 

最近どこの観光地も大勢の人出で賑わっている。ご多分に漏れず、筆者が夏場よく訪れる富士山周辺の観光地も、とりわけ中国や東南アジアの国々からの観光客とおぼしき人々で大賑わいだった。それもそのはずで、日本政府観光局が8月に発表した今年1~7月の訪日外国人客数は前年同期比47%増の1105万人となり、昨年より3か月早く1000万人の大台を突破した。一方、同じく観光庁が8月に発表した4~6月の日本人による国内旅行消費額は、前年同期比18.3%増の5兆5922億円となり、伸び率は現行の調査方式となった2010年以降で最大を記録したほどで、空前の旅行ブームの様相を呈している。こちらは、為替の円安基調による海外旅行から国内旅行へのシフトに加え、3月の北陸新幹線開業効果が大きいという。3月に北陸新幹線が金沢駅まで開業し、5月の大型連休などに北陸地方の観光地に向かう旅行客が増えたことにより、ゴールデンウィークの北陸新幹線の旅客数は39万1千人に達し、在来線特急の前年同期に比べ3倍強に拡大したそうだ。

東京駅を起点にすると金沢駅までの所要時間は、航空機だと3時間ほどだが新幹線だと最速2時間30分ほどになる。従来から、新幹線と航空機の交通機関分担率は鉄道の所要時間3時間程度、距離で700~900㎞程度で同程度になるとされているから、一気に新幹線利用者が増加したことも肯ける。ある2地点間のへだたりを人やモノが移動するのに要する時間によって表す指標として「時間距離」が使われるが、人々は北陸新幹線開業により金沢までの「時間距離」が短縮され、大幅に利便性が増したと感じたのである。

日本国内に限らず、地球上の時間距離は交通機関の発達とスピード化により年々短縮されているが、さすがに目的地が宇宙となると「時間距離」は未だ相当遠い。地上から400㎞上空の宇宙空間に建設された国際宇宙ステーションまででも、片道6時間弱はかかる。人類が初めて到達・往還した天体である月までは、わずか38万4400㎞だが往復するには1週間はかかる。まだ記憶に新しい小惑星探査機「はやぶさ」は、太陽系の小惑星イトカワまでの往還距離約60億㎞の旅を終えるのに7年の歳月を要した。人類の住む地球・太陽系が属する天の川銀河の直径は約10万光年と言われている。1光年は、光が自由空間かつ重力場及び磁場の影響を受けない空間を1ユリウス年(365.25日)の間に通過する長さ(約9.5兆キロメートル)だから、その時間距離はまさに天文学的数字で人類が旅するのは到底不可能と思われる。とどのつまり、行ったこともない、見たこともない宇宙は謎だらけと相成る。

それならばと、行くことも見ることもできない宇宙の始まりを再現して、どのように宇宙が生まれ、物質が生まれたのかという謎の解明に挑もうとしているのが、「国際リニアコライダー(ILC)計画」である。ILCにより電子と陽電子を高速に近い極限の速度まで加速、正面衝突させると電子と陽電子は消滅し、宇宙創成1兆分の1秒後の「エネルギーのかたまり」、ビッグバン状態が再現されるという。このILC計画の有力な候補地として日本の北上山地(岩手県一関市、奥州市付近)が国際推進組織リニアコライダー・コラボレーションから認知されており、日本政府の誘致決定がなされれば、数年以内に建設が開始される段階にきている。建設着工から完成まで10年以上かかると想定されているので、還暦を過ぎた筆者にとっては、ILCにより宇宙創成の再現をみることができるか否か、時間距離ではなく時間そのものとの競争になりつつある。できるだけ早く、2020年東京オリンピック後の日本の新たな国際イベント候補に認定されることを祈っている。


(馬画人)