2013年12月25日

雀のお宿


最近、都会では「スズメ」の姿を見かけなくなったという。そういえば、以前は「チュンチュン」という鳴き声で目をさましたものだが、近頃めったに聞かなくなった。山階鳥類研究所の調査によると、この20年余りで「スズメの数がおよそ6割減少している」ことが判明したそうだ。減っている原因については、気密性の高い住宅が多くなり、スズメが巣を作るすき間のある住宅が少なくなったことや、都市のコンクリート化が進んで空き地がなくなり、スズメのエサとなっていた雑草の種子や虫がいなくなったことなどが考えられている。スズメは稲穂などを食べる害鳥と思われがちだが、初夏の子育て中は、チョウやガなどの幼虫をヒナに与え、農作物から害虫を駆除してくれる益鳥でもある。もしスズメがいなくなれば、害虫が急激に増え、農作物に大きな被害を与える。かつて中国で、ハエ、カ、ネズミとともにスズメも「4つの害追放運動」として駆除したとたんに害虫の農作物被害が大きくなり、あわててスズメを害鳥から外したこともあったそうだ。スズメは人とともに生活する野鳥である。スズメが生息していなかった山林に開拓集落ができて、人が住むようになるとやがてスズメもやってくる。過疎化などで人がいなくなると、人家が残されていてもスズメもいなくなる。人を盾にして、天敵である猛禽類など大型の鳥も避けられることを知っているのではないかとも考えられているという。かといって、人に慣れることはなく、人と共存できる微妙な距離を保っている。この先、雀のお宿は、どこに行ってしまうのだろうか?

今年(平成25年)6月22日に世界文化遺産に登録された富士山周辺でも、訪れる観光客の増加とともに人と自然の共存が危惧されている。かくいう筆者も、富士五湖の一つである山中湖に夏場よく出かけるのだが、かなり民家に近い早朝の散歩道でしばしば鹿に遭遇する。臆病で警戒心の強い鹿は、一定の距離を保ちながら、まるで「そこから俺たちの縄張りに入るな!」と言わんばかりに、林の中からじっと当方を見つめている。鹿の場合は、天敵のニホンオオカミが減少して個体数が増えたという事情もあるようだが、人が原生林を開拓していくにつれ、鹿のエサ場との距離が確実に縮まっている。豊かな自然を享受しようとすると、そのこと自体が自然を壊すことになりかねず、人と自然の共存は難しいテーマである。

ILC計画の候補地のひとつとなっている北上山地は、標高600mほどの里山が連なる「日本の原風景」のような場所である。それこそ、人と自然の共存を絵に描いたような場所である。ここでILC計画を実現しようとすれば、地下深くに掘る30キロメートルのトンネルはさておき、研究所施設や研究者の居住施設は地上に建設することになり、少なからず自然に手を入れざるを得ないだろう。だからといって、自然の摂理の根源を探求しようとするILCが、間違っても自然を壊すようなことを惹起してはならない。そのためには、計画の初期段階から候補地とその周辺地域を俯瞰して、自然と共存できる研究施設のグランドデザインを描いておくことが必要になる。当協議会が、「雀のお宿」や「鹿のエサ場」にも配慮した日本ならではのILC計画つくりのお役に立てたら、幸いである。

(馬画人)