2013年10月31日

祝、アングレール博士とヒッグス博士がノーベル物理学賞受賞

 

今年のノーベル物理学賞は、素粒子の質量にはメカニズムによる起源があるという理論的予測をした、アングレール博士とヒッグス博士に授与されることが発表されました。その理論の正しさは、スイス・ジュネーブにある欧州合同原子核研究機関(CERN)のLHC加速器を用いたATLAS実験、CMS実験で発見された新素粒子の存在により確認されました。新素粒子の存在そのものは、昨年の7月に発表されましたが、その新素粒子が、質量の起源となるメカニズムの証拠であるヒッグス粒子だ、との発表があったのは、今年の3月でした。


アングレール博士とヒッグス博士は、「弱い力」を伝えるW粒子とZ粒子の質量が、「電磁気力」を伝える光子のようにもともとはゼロだったのだけど、あるメカニズムによって質量を持つようになったとすれば、弱い力の理論がつくれるのでは、と考えました。更に、そうしたメカニズムが働いているならば、新しい素粒子が見つかるはずだと予測します。そのメカニズムの証拠として探し求めできたのがヒッグス粒子です。そして遂に、LHC実験が確認したのです。


ノーベル財団は、そのメカニズムをBEHメカニズムと呼びました。Bは1964年のアングレール博士の論文の共著者で、2011年に亡くなったブラウト博士の頭文字、Eはアングレール博士の頭文字、Hはヒッグス博士の頭文字です。


BEHメカニズムは3段階からなっています。まず、第一段階で、ヒッグス粒子を作る真空の性質に「自発的対称性の破れ」と呼ばれる変化が起きます。すると第2段階として、南部・ゴールドストン粒子と呼ばれる粒子が生じます。そして第3段階で、ゲージ粒子と呼ばれる素粒子達に南部・ゴールドストン粒子が吸収され、質量を持つW粒子とZ粒子、質量を持たない光子が生まれるというものです。そして、この一連の変化が起きた結果、質量を持つ新しい素粒子が存在するはずだと、ヒッグス博士が論文で発表しました。また、第一段階の自発的対称性の破れの変化は南部陽一郎博士によって提唱された現象で、南部博士はこの理論により2008年のノーベル物理学賞を受賞されています。


実は、このメカニズムを1964年に論文で発表したのは、この3人だけではありませんでした。キッブル博士、グラニクル博士、ヘーゲン博士も全く独立に、同じ理論を発表したのです。アングレール博士達の論文の掲載日が、1964年8月31日、ヒッグス博士の論文が、1964年10月19日、キッブル博士らの論文が1964年11月16日でした。実際、20年前の教科書では、BEHメカニズムはヒッグス・キッブスメカニズムと書かれていたこともありました。最近の多くの教科書では単にヒッグス・メカニズムと紹介されています。上記のメカニズムの存在を予測していた研究者は、6名にのぼりますが、ブラウト博士が亡くなっているので、メカニズムの提唱者は5名。そのため、3名枠しかないノーベル賞の受賞はどうなるかが注目されました。また実際に実験で確認することが物理学の本質ですから、メカニズムの直接の証拠としてのヒッグス粒子の存在を確認した実験グループ、あるいは加速器を作った研究所の扱いも注目されました。これまでのノーベル物理学賞で実験グループや、研究所に授与された例はありません。結局、ノーベル財団の決定はメカニズムを提唱した最初の2論文の著者に贈るというものでした。


更にアングレール博士とヒッグス博士の考えがきっかけになって、W粒子とZ粒子だけではなく、電子やトップクォークなど、他の質量を持つすべての素粒子の質量もメカニズムによって与えられた性質であると、理論が拡張されます。それが標準理論と呼ばれる理論体系になっていきます。つまり、どうやら素粒子の質量という基本的な性質は、メカニズムによって与えられた性質であったということなのです。


電子やトップクォークに質量を与える拡張されたメカニズムはもっと詳しく調べる必要があると考えられています。例えば、トップクォークは電子の質量の35万倍にものぼります。何故、メカニズムは、トップクォークにそんなに大きな質量を与えるのか?メカニズムは、そもそもどうやって電子や、トップクォークといった素粒子の違いを見分けているのか?そして、メカニズムに関係している素粒子は、今回見つかったヒッグス粒子だけなのか?そうしたメカニズムの詳細は、精密に素粒子反応を観測できるILC実験によって解明できると、期待がかけられています。

 

順風奔放