2011年12月16日

何故、物理学者はヒッグス粒子の探索に大騒ぎするのでしょうか

 

12月13日の CERN の LHC 実験からの発表で、ILC 建設の重要性がますます高まりました。確定するには今後の LHC 実験データの蓄積を待たねばなりませんが、ヒッグス粒子は125 GeV 付近の質量を持つと考えられる可能性があるということです。CERN で行われたセミナーの様子は同時配信され、世界中の物理学者が発表を見入りました。


そもそも、たかが一個の素粒子の存在の有無に何故これほど物理学者は右往左往しているのでしょう。それは、ヒッグス粒子がこれまでに知られている素粒子とは全く異なる性質を持っており、しかも、その存在が20世紀素粒子物理学の根幹に関わっているからです。


素粒子の運動は場の理論で計算できると考えられています。1965年にノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎博士は、その著「量子力学的世界像」で場の理論を、電光掲示版を使って説明しました。電光掲示版は、一面にしきつめられた電球で文字の形を形成し、点滅を調整することで、文字が流れていくように見せます。


同じように、実際の空間上を電子が運動していく様子も、空間の一点一点に電子の電球があらかじめ埋め込まれている「電子場」が存在していて、それが明滅して電子の流れをつくり電子の運動となる。これが場の理論です。


更に、空間には電子の他にも、クォークや、光子などに対応する電球があらかじめ備え付けられていて、ある一定のエネルギーがその電球に与えられると、電球が光って、そこにその素粒子が存在すると考えます。光子と電子が関わる運動では、場の理論にもとづいた計算値はなんと実験値と10ケタも一致しています。


これまでに発見されている全ての素粒子は、空間に十分なエネルギーが与えられると電球が点いて、そこにその粒子が現れると考えられています。ところが、ヒッグス場(ヒッグス粒子の場)だけは、もともと全ての電球が始めから点きっぱなしという性質を持ちます。いえ、そのような性質の場の存在を仮定すると、その他の素粒子の運動の性質がきちんと計算できることがわかったのです。しかし、どこでも存在するということは、どこにも存在しないことと同じことなので、ヒッグス場が点灯していることを観測することはできません。


ヒッグス粒子を確認するためには、ある場所にエネルギーを注入して、その場所と他の場所とを区別する必要があります。LHC 実験や ILC 実験は、陽子同士や電子と陽電子を衝突させることでエネルギーを空間の一点に集中させ、他の空間と異なる状態をつくり、そこにヒッグス場を粒子として観測できるようにします。


全空間にわたっていつでもヒッグス場が点灯していることが、何故重要なのでしょう。電子がそこに現れると、電子は常時灯っているヒッグス場と反応し電子はその動きを鈍くします。この動きの鈍さが電子の質量になると考えるのが、ヒッグス場を使って素粒子に質量を与えるからくりです。


このようにヒッグス場が、電子やクォーク、弱い力を媒介する力の素粒子などに質量を与えていると考えると、20世紀後半に行われた素粒子実験のほとんど全ての値が0.1%の精度で再現できることが確認できました。この素晴らしい一致の根底には、いつでもどこでも点灯しているヒッグス場の存在の仮定があるのです。


ヒッグス場の性質解明ができれば、人類は素粒子ゲームの第一面をようやくクリアということになります。クリアの条件はヒッグス場の各種パラメータの精密決定です。そのためには衝突エネルギーを自在に設定でき、精密測定が可能な ILC 実験が不可欠です。2012年末には ILC計画 の全貌が確定します。ILC によるヒッグス場の全容解明に向けて前進です。


 

順風奔放