ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2018年05月02日

どこでもサイエンス 第130回 ビッグバン、なんで必要なんですかっ!

マイナビニュース

必要は発明の母。といいますが、宇宙誕生時のビッグバンも、必要があったからひねくり出された理論です。最近、「超巨大実験装置ILCを日本に建設し、ビッグバンの直後を再現」なんて話もございますし、今回は、ビッグバンについてチョット語ってみますねー。

ビッグバン。うーん、宇宙な響きですなー。ビッグバンで宇宙が始まった、というのは、割と知られていることです。義務教育ではやらないのに広く知られる。おもしろいものですなー。最近、日本が誘致しようとしているアイドルかサッカーチームなみに「サポーター」が発足した巨大科学プロジェクトILC(国際リニアコライダー)では、このビックバンの宇宙状態を再現しようなんてのがテーマにあがっています。ビッグバンの再現ですよ。いや、大丈夫なの? という気もいたします、ということでビッグバンについて語ろうかということになったのでございます。

ところで、ビッグバンというのは何でしょうか、というと「何か、宇宙が大爆発ではじまったんじゃないのー」「それが138億年前で」「その勢いで宇宙が膨張をはじめたんじゃね」という方は、かなりご存じの方ですねー。私よりよく知っている多数いる宇宙マニアなんじゃないですか? はい、まちがいです(えっ!)。

ビッグバンというのは爆発のことじゃあないんですよ。宇宙全体が最初のころが非常に超高圧、超高温の状態、だったのをさして、ビッグバンというのですね。火の玉宇宙という言い方もしていました。

これを考えたのは、ジョージ・ガモフというロシア系のアメリカ人科学者です。かなーり変な人であり、火の玉宇宙について述べた弟子のアルファーと共著の重要な論文に、無関係なベーテさんの名前を入れ、アルファ・ベーテ・ガモフ論文(αβγと聞こえるのでおもしろいからという理由)としてしまったという逸話があるくらいです。まあ、うけるベーテ博士(ノーベル賞学者です)もたいがいですけれどね。アルファーはこの師匠のやりかたに、かなり腹をたて(自分の研究なのに、ベーテの手柄に見えちゃう)ずーっと師匠を許さなかったというお話がございます。さらにアルファーの共同研究者に、あやうくデルタに改名させられそうになったロバート・ハーマンという人もいてですね…こういう話が延々と続けられるのが、ジョージ・ガモフでございます。

ところで、このビッグバンというのは、どうしてでてきたのか? 誰かみたんか? ガモフはみたんか? というと、いや、見ていないのですね。ただ、そういう考えを提唱した人が前にいたんですな。

その人はルメートルという神父さんでございます。彼は神父さんなんですが、物理学者としても一流でございました。ルメートルは、アインシュタインの相対性理論 -それを理解するのも困難といわれていた理論- を検討し、宇宙は膨張するという計算結果を出したのでございます。アインシュタインも、宇宙は不安定になって潰れてしまうという計算結果を出していたので、ルメートルは正しいと知っていたのですが、でもですね、宇宙が潰れるかもとか、いやじゃないですか。なので、宇宙が潰れないように相対性理論をチョイといじってしまったです。それがアインシュタインでございます。

ところが、そんなのお構いなしに、しれっとルメートルが「余計なこと」をしてくれるので、アインシュタインはむかついたらしく「おまえ、計算はあってるけどさー、物理としては、ぺっぺっぺーだ(意訳※)」という暴言を初対面のルメートルに対して言ったという逸話が残っています。

※ “Your calculations are correct, but your physics is atrocious.”

ま、後にアインシュタインはルメートルを尊敬するようになるんですけどねー。

ルメートルさんの宇宙膨張理論は、実際にハッブルという人が観測で確認してしまいます。そう、そういうことしたからハッブル宇宙望遠鏡なんて望遠鏡の名前になっているんですな。ちなみに、ハッブルが使っていた当時世界最大だったフッカー望遠鏡と、ハッブル宇宙望遠鏡の鏡はほぼ同じサイズです。大きく違うのはそれが地上にあるか、宇宙にあるかということですな。

さて、宇宙が膨張している、ならば、過去にさかのぼると、宇宙は小さかった。ということになりますね。ルメートルさんは、それが極限まで小さな宇宙の卵、原始的な原子だったと考えました。ようは、宇宙に始まりがあるということでございますな。彼は、宇宙卵が創世のときに爆発したという表現をよく使いました。これ、神父だったルメートルが言ったもんだから、科学に、「聖書のような創世記」を持ち込むのか! と反発をくらいます。ビッグバン(大爆発、かつ、おおほら吹きという意味)、で揶揄されるようになります。

あれ? ビッグバンはガモフだったんじゃないの? はい、そうです。ガモフでございます。いま、ビッグバンと言われているのはガモフが考えたことです。ガモフは、ルメートルがいうように宇宙が小さかったとすると、「宇宙の現在の姿」を説明できると考えたのですな。それがアルファ・ベーテ・ガモフの論文に書かれたことでございます。その「宇宙の現在の姿」っていうのは何かというと。

宇宙のほとんどは、水素とヘリウムでできている。

ということでございます。

もちろん、私たちの体は、カルシウムやら酸素やら炭素やらリンやらでできているわけですし、そこら中にある水は、水素2に対して酸素1ですから、そういうものの存在感はあるんですね。

ところが、太陽系の物質の9割以上を占める太陽は、ほぼ水素とヘリウムで9割以上ができているんですね。つまり、太陽系の中でも、水素とヘリウムが圧倒的に多く、あとはふりかけ程度すらないのでございます。宇宙全体だと水素75%、ヘリウム25%、あとはもう誤差みたいなレベルです。

ところが、こうした元素は、超高温・超高密度の星の内部で、ヘリウムと同じくらい酸素やら炭素やらが作られることがわかってきたので、これ、納得できません。宇宙そのものに元々水素とヘリウムがメッチャクチャ多かったと考えるしかないわけなのでございます。

そこでガモフは、宇宙全体が超高温・超高密度の火の玉だった時代があれば、この大量の水素とヘリウムの存在を説明できると考えたんですね。それがルメートルがいっていた宇宙卵とかいう時にあたると考えて、計算したら…うまくいくということがわかったのでございます。

ということで今いっているビッグバンは、大爆発ではなく、宇宙の最初が超高温・超高密度であったことを示すのですなー。膨脹はしてはいますが、まあ、それは大爆発もなにも、相対性理論からでてくる自然の性質なのでございます。もっとも膨脹したから、超高温・超高密度ではなくなり、現在の冷えた宇宙があるわけです。

ところで、ガモフたちは理論的にこれを示したわけですが、そんなホントに宇宙が熱かったのかいな? という疑問がでてきますね。その証拠は、宇宙背景放射という熱の残光で確かめられました。宇宙全体が0度ではなく3度Kの熱を持っていることがわかったのでございます。

ということで、ビッグバンはいまや、もう確立しているのですが、実際にビッグバンの状態を作ってみて、何がおこるのよ? というのは興味深いわけです。世界中の科学者が超高温・超高密度を作れるスーパーマシンを作りたいと考えており、国際協力で作られる方針となっているのがILC(国際リニアコライダー)、30kmもの加速器をつくり、物質を衝突させ、瞬間、ビッグバンと同じ状態を作って、何がおこるか実験するというものなのですな。まあ、しかしあれですな、これ、地上だとうまくいかなさそうで、30kmものトンネルを掘るって計画なんですが。あの、30kmのトンネルって、世界最長クラスの青函トンネルとか英仏海峡トンネルクラス(全長53kmとか50km)ですからね。まあ、大土木工事になるわけですから、国家プロジェクトになりますな。日本は誘致に成功するか? どうでしょうかねえ。日本でビッグバンが再現されるかどうかという話でございますね。これ。

著者プロフィール
東明六郎(しののめろくろう)
科学系キュレーター。
あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。
(東明六郎)