ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

最新情報

2014年08月05日

未来へのアルピニズム ILC誘致 夢と現実(1) 【日本学術会議 ILC計画フォーラムより】

胆江日日新聞

北上山地への誘致が期待される素粒子研究施設・国際リニアコライダー(ILC)。震災復興や経済振興、教育充実の呼び水として地域挙げての誘致活動が繰 り広げられている。壮大な夢が描かれている一方で、総額1兆円規模の超大型事業に対する国民理解の形成など、対応すべき諸課題は多岐にわたる。名峰の頂上 を目指すアルピニズムのごとく、ILC実現への道のりは決して容易なものではない。日本学術会議が6月23日に開催したILC計画学術フォーラムでは、7 人の有識者が「夢と現実」について語った。講演要旨を連載する。 (児玉直人)

リスク明確化が重要 学術会議の検討経緯(家 泰弘氏)
多くの皆さんがフォーラムに参加していただいたことは、ILC計画に対する関心の高さをうかがわせる。学問の分野を越え、忌憚のない意見を――というのがこのフォーラムの趣旨だ。
日本学術会議は昨年5月24日、文部科学省からILC計画に関する審議依頼を受け「ILC計画に関する検討委員会」を設置。私が委員長を務めた。
当時はILCの技術設計報告書(TDR)が完成。並行して、日本国内の候補地選定作業も進められていた。
このような状況もあり、速やかに返答するため計7回の会合を短期間で開催。専門家の方々の意見も聞かせていただき、8月末に回答案をまとめた。査読(回答 文提出前に行われるチェック作業)を経て、9月30日に文科省へ手交し一般公表もした。回答の大まかな中身を見てみたい。
ILCは、CERN(欧州原子核合同研究機構)にあるLHC(大型ハドロン衝突加速器)と相互的役割を果たす素粒子実験施設だ。現時点で最も検討が進められており、国際チームによる詳細設計にも着手している。学術的意義も高いと評価した。
一方で巨額投資に見合うよう、明確で説得力のある説明が望まれる。ILCは、その経費や人的資源の規模からいって、単独の国や地域だけで実施できない。参加国・地域による持続的な協力が必要だ。
日本誘致を想定した場合、現時点では実施体制や外国人研究者の参加見通し、必要経費の分担見通しなど、重要事項について不確定な部分がある。科学技術に対 する予算配分は限られている。国家的諸課題に深刻な影響を与えたり、科学技術創造立国を支える諸学術分野の研究に停滞を招いたりすることがあってはならな い。
これら学術会議からの提言を受け、文科省は今年5月に有識者会議を設置している。
ここからは私見も入る話だが、大きなプロジェクトをやる上では、さまざまな不確定要素やリスクは付きものだと思う。
CERNのLHCでは、実験性能をアップする取り組みが始まろうとしている。これによって、素粒子物理研究のめぼしいところをCERNでやってしまうのでは――と素人なりに感じてしまう。
このほか▽陽電子の生成が期待通りできるか▽1万7000台もの加速器空洞(クライオモジュール)の品質確保とコスト削減が本当に可能なのか▽大規模な地 震への備えは大丈夫か▽コストオーバーラン(経費が想定以上に膨れ上がること)に対しどう考えているか――などILCに対する心配は尽きない。
何よりも大きなリスクが「国際協力」の関係だ。経費負担をするからには、それ以上の便宜享受を参加各国は期待するだろう。また、科学的に面白い部分には目を向けるかもしれないが、インフラの出資については渋るのではないだろうかとも想像してしまう。
無事に運用が始まったとしても、各国の財政状況の変化や為替変動もあり得る。脱退希望や分担金の減額要請に対し、どう対応するかという問題もある。
以上、素人なりに考えてみたものではあるが、これらの懸念の解消を願っている。
学術会議としては今後、文科省の有識者会議の審議検討の推移を見守る。もし必要があれば、学術全体の立場から適宜関与していきたい。
最後にILCを推進する立場の皆さんにお願いがある。長期にビッグプロジェクトを進める上では「想定外を想定する」ことが大事だ。考えられるあらゆるリスクをできるだけ明らかにし、複数のプランを示していくのが一つの手順だと思う。
ILCを進める研究者の皆さんはこれまで一般市民や青少年、産業界、政界、建設候補地への働きかけを一生懸命やられてきた。だが、ややもすれば当該分野以外の研究者への働きかけはやや希薄だったのではないかと感じる。
そういう意味で今回のフォーラムが一つのきっかけとなり、広く学術コミュニティーの理解を得る機会にしてもらいたいと願っている。