ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2013年11月09日

「絶好球」に腰を引くのか?

産經新聞

 今年のノーベル物理学賞は、物質に質量をもたらす「ヒッグス粒子」の存在を理論的に予言した英国のピーター・ヒッグス博士らに贈られる。

欧州合同原子核研究所(CERN)の巨大円形加速器(LHC)による「発見」が、授賞の決め手になった。

「ヒッグス粒子の発見は、20世紀の物理学の集大成であると同時に、21世紀の物理学の幕開けでもある」と、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉機構長は解説する。

21世紀の新しい物理学をさらに探究するには、LHCを上回る性能を備えた次世代加速器が必要となる。それが、日米欧などの科学者が国際協力による建設を目指している直線型の巨大加速器「国際リニアコライダー」(ILC)である。

国内の建設候補地は8月に一本化され、岩手、宮城両県にまたがる北上山地に決まった。安倍晋三首相は2月の施政方針演説で「世界最先端の加速器技術への挑戦」に言及し、世界の科学者も日本への建設を望んでいる。

問題は、重い財政負担だ。ILCの建設費は8300億円で、立地国の負担は今後の政府間交渉に委ねられるが、全体の半額程度となる見通しとされる。

日本学術会議は「ILC誘致が震災復興やエネルギー・環境問題などの国家的課題への取り組みや他の学術分野の停滞を招くことは、あってはならない」などとする見解を示し、下村博文・文部科学相は「来年度すぐに、日本が手を挙げるという段階ではない」としている。

 学術会議の指摘は常識的な内容である。文科相の判断も妥当だろう。ただ、問題点や課題が強調され、国内誘致の機運に水を差されたような印象も受ける。

日本が政府間交渉の「打席」に立つのはこれからだ。今は、科学者が投じたILC計画の球筋をしっかり見極めるときである。ILCが日本社会にもたらす波及効果も、見落としてはならない。

ILCが建設されると、研究者と家族を含めて1万人規模の異文化圏が創成される。もちろん、時代背景は違うが、グローバル化の観点からは、江戸時代の長崎・出島以来ともいえる大規模プロジェクトといえるのではないか。

この「国際科学都市」が地域に根ざせば、日本が長く直面してきた課題である地方再生のモデルケースにもなる。

ILCは10~20年後に「日本がアジアの中心である」ことを世界に発信するシンボルにもなる。

欧米は誘致に消極的で「日本が誘致しない場合は中国が手を挙げるのではないか」とみる関係者もいる。仮に中国にILCが建設される場合、日本は応分の負担をして参加することになるだろう。

社会への波及効果を考えると、ILCは今の日本にとって「ど真ん中」の好球にみえる。ただし、球質(財政負担)は重い。

誘致の最終判断は慎重に下すべきだが、腰の引けた消極的な姿勢では、まともに打ち返すことはできまい。凡打になることを恐れて「絶好球」を呆然(ぼうぜん)と見送るのは、なお悪い。(論説委員)