ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

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2012年07月26日

日本に「ヒッグス研究都市」を

日経ビジネスオンライン

著名な経済人や政治家が、最先端研究施設の誘致を訴えた。ヒッグス粒子を発見した「加速器」の次世代施設だ。巨大実験場の経済効果は大きく、日本の知が結集し始めた。

高齢化が進む日本の過疎の町に、世界各国から研究者5000人、家族を合わせて1万5000人を超える人々が押し寄せてくる――。

日本創成会議は7月12日、日本に巨大実験施設「国際リニアコライダー(ILC)」を誘致すべきだと提言した。スイスにある欧州合同原子核研究所 (CERN)にある「加速器」で、万物に質量を与える「ヒッグス粒子」と見られる素粒子が発見されたばかり。ILCは次世代加速器であり、宇宙の起源を解 き明かすうえでカギを握る素粒子の研究で、世界最先端の巨大実験場となる。

「日本は、地方にグローバル都市を創成すべきだ。世界から資金と人を呼び込み、産業空洞化が進む地方都市を立て直さなければ、日本は立ち行かなく なる」。発表の席上で、座長の増田寛也・元総務相はそう主張した。日本創成会議には増田氏のほかに秋草直之・富士通相談役、薮中三十二・前外務事務次官ら 15人が名を連ねる。

誘致を目指すILC計画は、地下100mの場所に、加速器を装備した長さ50kmのトンネルを造る。この巨大構想は年内にも設計が完了。来年には、誘致に名乗りを上げる欧州や米国など世界各国との競争が本格化する。

まだ日本はILCの誘致を正式に決定していない。ただし、文部科学省は候補地選定を2003年から進めており、岩手県北上山地と福岡県と佐賀県の県境の背振山地に絞り込んだ。今年度中に、詳細な地質調査などを実施する。

“筑波の失敗”から学ぶ

実現すれば、建設費8000億円、建設期間10年の巨大プロジェクトとなる。誘致国が費用の約半分を負担する見通しだが、建設期間中は年間2万5000人の雇用が生まれる。運用期間は20年の予定で、その間、世界各国から5000人以上の研究者が集結する。

こうした人材が家族を伴って日本に来た場合、高い経済効果が期待できる。施設周辺にはグローバル都市が誕生して、流通や外食、医療、教育など1万人超の雇用が生まれるという。原子力発電所に匹敵する雇用創出効果だ。

CERNのケースを見ても、その効果は明らかだ。東京ドーム17個分の施設に2500人の職員が勤務し、年間1万人以上の研究者が参画する。研究 者の大半が周辺の小さな村に住み、そこに新しいコミュニティーを生み出している。週末になれば、小さな村に100以上の店が並ぶ「市場」が出現する。公園 では休日を過ごす研究者や家族の姿が見られる。

世界的な研究者が集積することで、地元自治体にとっては税収増と、雇用創出という利点が生まれる。また、生活や教育の環境整備が一気に進む効果も大きい。医療機関やインターナショナルスクールも増え、こうした生活環境を求める日本人まで引き寄せる。

産業の集積も進む。茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構は、ILCよりも小規模の加速器を持つが、医薬品メーカーなど約50社が研究所を併設している。

ただし、グローバル都市の創造は、誘致の成功だけでは終わらない。増田氏は「筑波の失敗を繰り返してはならない」と指摘する。1960年代に開発が始まった筑波研究学園都市は、長らく交通や小売店などの整備が進まず、住環境としての魅力が高まらなかった。

誘致合戦を勝ち抜くためには、「世界的研究者の中心地」を造る設計図が重要だ。教訓を生かし、住環境まで配慮した魅力的な都市計画を提示すべきだ ろう。日本の名だたる経営者や政治家がこの計画に言及したことで、「日本の知と経験」を集めた研究都市造りが始まろうとしている。

日経ビジネス 2012年7月23日号15ページ
-日本に「ヒッグス研究都市」を- より

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