ILC PROJECT [ 国際リニアコライダー計画 ]

加速器を知る

ILC加速器の技術

円形から線形(リニア)へ

現在、世界最高性能の加速器は、ヨーロッパのCERN研究所にあるLHC(Large Hadron Collider:大型ハドロン衝突型加速器)です。周の長さ約27km、ほぼ山手線と同じ大きさの円形型の加速器です。円形型の加速器は、粒子が同じところを何度も回っている間に、徐々に加速すればよいため、一回の加速の力がさほど大きくなくてもよいというメリットがあります。しかし、円形型の加速器にもデメリットがあります。カーブのたびに粒子に加えたエネルギーの一部を失ってしまうのです。

そこで、現在ある加速器よりも粒子を速く加速するためには、直線型(リニア)にするのが、もっともよいと考えられています。そのため、ILCは直線型(リニア)で設計されています。

 

ILCの技術ポイント

技術的な最大ポイントは2つあります。まず第一に加速装置に超伝導を用いることによって加速性能を向上させること。第二に粒子ビームの太さを非常に細くすることによって、粒子密度を増やし、衝突頻度を上げることです。

これらの工夫により、必要な性能を満たしながら建設コストと消費電力を下げることが可能になります。

左が超伝導加速器・右がナノビーム制御装置

超伝導加速技術

ある種の物質を極低温に冷やすと、電気抵抗がゼロになる「超伝導」状態が生じます。
さまざまな産業応用が進んでいる超伝導技術。加速器でも「超伝導加速空洞」が粒子ビームの加速に、「超伝導マグネット」が粒子ビームの軌道コントロールに使われています。
先端加速器で主役を務めるのは、超伝導加速空洞。
超伝導素材でつくられた空洞にマイクロ波を送り込んで電場をつくり、電子や陽電子のビームを加速します。-271度Cまで冷却されたニオブ製の空洞の内表面は超伝導状態になり、電気抵抗が生じません。
そのため、電力損失や加熱が起こらず、空洞の中にマイクロ波のエネルギーを、きわめて効率よく溜め込むことができるのです。
ノーベル賞を受賞した小林誠・益川敏英の理論を実証したKEKB加速器。
その超伝導加速空洞は、大電流電子ビームを安定に加速し、世界トップの性能を誇ります。
J-PARC (大強度陽子加速器施設)第二期計画用の超伝導加速空洞も開発されており、それらの技術の蓄積をもとに、さらなる研究開発が進められています。

超伝導加速空洞の3つの特徴

1.小さな電力で高電界を発生することができるので、短い距離で大きなエネルギーを粒子に与えることができます。
2007年に「基準設計報告書」を発表した「国際リニアコライダー(ILC)」の加速空洞は、150Wのパワーで1m当たり3500万ボルト(35メガボルト(MV))の実現を目指しています。

2.大口径の超伝導加速空洞を実現するので、大電流の加速を行うことができます。 KEKB加速器で、すでに1.4アンペアを実現しています。

3.船が水面を進むとき、かき分けられた水は整然としたパターンをつくります。これが「航跡場」。加速空洞内でも、進むビームが航跡場をつくります。この航跡場は、次に来るビームを破壊することもあります。しかし、超伝導加速空洞では、口径が大きいために航跡場で電場が乱されることが少なく、高品質なビームをそのまま加速することができます。

ナノビーム生成・制御技術

先端加速器でのビームのサイズは、衝突点付近で高さ5ナノメートル(100万分の5mm)。水素原子わずか100個程度の厚さでの非常に薄いリボンのような形をしています。その実現には、ビームを小さく絞り込む技術が必要です。
ビームを小さくすれば、電子や陽電子の密度が高くなり、衝突の頻度が上がります。ビームの絞り込みには、磁場の強度分布の変化が急でしかも精密に制御された「高精度高勾配収束電磁石システム」と、粒子の方向がよく揃った「超平行ビーム」を実現しなければなりません。
また、小さなビームを正確に衝突させるには、衝突位置のズレをナノメートル精度に制御する技術も不可欠です。

測定技術の限界に挑む

国際リニアコライダー(ILC)の実現をはかるための試験加速器が「ATF(Accelerator Test Facility)」で、その電子リングは、従来より約100倍も平行度の高い「超平行ビーム」をつくることができます。主要因の1つは電磁石群の設置精度(位置決め精度、アライメント)です。ATF 電子リングは周長約140mのレーストラック型で、真空パイプの中を電子ビームが走ります。このパイプに沿って、約50個の偏向磁石(電子ビームをパイプの形に沿って曲げる磁石)、約100個の収束磁石、約100個のステアリング磁石(電子ビームの軌道を修正する磁石)、約100個のビーム位置モニターが、測量技術を駆使して、50ミクロン(100分の5mm)の精度で設置されています。
中でも重要なのが収束用磁石の設置精度です。収束磁石はビームがその中心を通った時には収束作用のみを発揮しますが、中心からわずかでも外れると、収束だけでなく、ビームを「乱す」作用を生じてしまうからです。

ビームを超平行にする

電磁石群の設置精度を50ミクロンにしても ATFに要求される超平行ビームは実現できません。そこで考え出されたのがビームベースアライメント。磁石の位置に少々の乱れ(50ミクロン程度)があっても、ビームの軌道を微調整し、各々の収束磁石の中心を通るようにする方法です。
この時に活躍するのが、ビーム位置モニターとステアリング磁石です。
まず、ビーム位置モニターでビーム軌道を測定し、ステアリング磁石でビーム軌道を微調整し、収束磁石の中心をビームが通るようにします。しかし、これではまだ不十分。そこで、収束磁石のどこを通っているかを「ビームに聞く」のです。
ある1つの収束磁石の強さを変化させ、それよりも下流のビーム位置モニターでビームの位置の変化を見ます。変化が無ければ、ビームは先の収束磁石の真ん中を通っています。変化があれば、この収束磁石の真ん中を通っていないことになります。その場合は、この収束磁石より上流のステアリング磁石で軌道を修正します。これを一周にわたって繰り返せば、ビームはすべての収束磁石の中心を通るようになります。

ビームを絞り込む

超平行ビームにした後は、いよいよビームをナノメートルのサイズに絞り込みます。基本的には虫眼鏡で光線を絞るのと同じです。しかしながら、これまでにない極小のビームを実現するために、ここにも多くの工夫があります。
まず、多数の磁石を並べます。高性能な光学写真が、多くのレンズを並べ、収差(光の絞り込みを阻害する要因)を取り除き、シャープな像を得るのと同じ原理です。そのため KEKの試験加速器に設置された絞り込み用のビームラインは、長さが60mもあります。さらに、本番の国際リニアコライダー(ILC)では試験加速器よりずっとエネルギーが高くなるので、絞り込み用のビームラインの長さは 1.2 kmにもなります。
数多くの磁石を精度よく並べる工夫も必要です。ここでもビームベースアライメントが活躍します。そして、最後に強い磁石でギュッと小さく絞ります。試験加速器では、絞り込まれたビームのサイズは35ナノメートル、国際リニアコライダー(ILC)では5ナノメートルになる予定です。

ビームを制御する

国際リニアコライダー(ILC)では、わずか5ナノメートルまで絞り込まれたビーム同士を正面衝突させます。このような離れ業を実現するためには、ビームの位置をナノメートルレベルで制御し、安定に保つ必要があります。
ここでもまず初めに行なうのは「ビームに聞く」こと。ビームの中のあるバンチ(電子または陽電子の集団)が正面衝突していないと、ビームの周りの電磁場の影響により、衝突後の軌道が大きくズレます。これをビーム位置モニターで測ります。こうやってビームに聞いた「ズレ」が観測されると、高速のデジタル回路がズレの大きさと方向から補正量を計算。その補正量にしたがって高速の電源が動作し、電磁場によりビームを瞬間的に蹴る装置「ビームキッカー」に高電圧パルスを送ります。これら一連の動作により、次からのバンチの軌道は修正され、正面衝突を維持するのです。ズレの観測からビームキッカーの動作までにかかる時間は、150ナノ秒以下という高速です。試験加速器ATFでは、これらの装置の開発とテストも行われています。